088.人の多さにゃ気をつけろ
シーラのお買い物に、さすがに全員で付き添うのもどうかという話が出た。ちなみにファルンから。
「人が多いですから、この人数で一緒に動くのは少々ご迷惑ではないかと思いまして」
「六人だもんなあ……三人、三人くらいで分かれるか。集合場所指定で」
「それが良いですね」
俺の提案をカーライルが鵜呑みする形で、なし崩しに決まった。シーラについていく組と、この中で外見上一番ちっこい俺の子守というかなんというか、な組と。
「わたくしは、シーラ様に付き添いますわ。わたくしの護衛として同行くださっている方の武器を購入するのですから、マール教からお代を出すことになりますもの」
「すまんな。あまり高いものに手を出そうとしたら、怒ってくれてかまわん」
「ものの質にもよりますわね」
言い出しっぺのファルンは、自分からシーラの付き添いを申し出た。確かに、名目上ファルンの修行に護衛でついてきてるんだから資金は出すべきだわなあ。いや、俺たちもしっかり出してもらってるけれど。
「殿方がいたほうがよろしいかしら。アムレクさん、お願いできます?」
「あんまりやくにはたたない、とおもうけどいきます」
いや、ウサギ獣人て地味に攻撃力はあると思うぞ。引っ掻いたり蹴ったり。そうじゃない? まあいいけど。
「そうなると、俺の方にはミンミカお姉ちゃんとカーライルお兄ちゃん、か」
「はっ」
まあ、順当だよなと思う。これが、こっちがウサギ兄妹だと俺、何というか胃袋に穴開きそう。飯食ってるから、神様だけど一応胃袋あるようだし。
と、カーライルがミンミカに言いつけていた。
「ミンミカ、コータちゃんにしっかりついていてくれ。俺もいるけれど、これだけ人が多いと何があるか分からないから」
「わっかりましたあ」
「おう、よろしくなー」
ああうん、確かにこのドンガタの村、地味に人多いんだよね。俺ちっこいから、迷子になる危険性はあるわけだ。
ちなみに今いるのは乗り合い牛車降りてちょっと歩いたところにある広場だけど、ここも行き交う人々がほんと多い。外見上俺と同じくらいの子どもたちも走り回ってるし、ミンミカが張り付いてくれてた方が多分俺は動きやすいな。カーライル、クソ真面目残念イケメンだし。
「コータちゃま、なにかみにいきましょう!」
「よし、行こう!」
「だーかーらー」
というわけでカーライル、後からついてこい。せっかくなので、子どものふりをしてミンミカと共にトコトコ歩く。手を繋いでいるから大丈夫だと思ったけれど、これが甘かった。
「わっ」
「おい、気をつけろよ」
ミンミカには気づく人も俺には気づかなかった。なんで、おっさんの足を引っ掛ける感じで俺がぶつかってしまったわけだ。その衝撃で手は離れるし、うわあやべえ。
「ごめんなさい」
「お、おう」
思わず頭を下げて謝ると、白髪交じりの黒髪のおっさんは驚いたように目を丸くして答えてくれた。何だ、いい人なのかね。
「謝ることができるのは、いい子だねえ。ご褒美に、あっちで良いもの買ってあげようか」
いい人じゃねえわ。こういうパターンもあるんだな、なるほど。……じゃなくって。
そこへちょうど、ミンミカが戻ってくる。助かった、と思ったんだが何しろミンミカだったので、少々斜め上な発言をしてくれた。
「おじさん、コータちゃまつれてどこいくですか? ミンミカも、いっしょいきたいです!」
「え、あ」
良いもの買ってあげようか、に反応したのか、お前は。ウサギ獣人だから耳良いしなあ、しっかり聞こえたんだろう。
ただ、おっさんの方もミンミカがこういう言動するもんだから、よし行けるなんて思ってしまったんだろうな。
「そ、そうだな。お嬢ちゃんも、一緒に行くか」
そんなふうに誘ってきたわけだ。
「うちの子に何か御用ですか」
「あらあら。この子、わたくしの同行者ですのよ」
「コータちゃま、ミンミカ。あぶないから、かってにいったらだめですよー」
おっさんの不運は、俺たちが分かれてほとんど時間が経っていなかったことである。つまり、カーライルは当然ながらファルンもアムレクも近くにいたわけで。というかみんな、満面の笑みなのに目が笑ってないのすごいな。
もちろん、シーラだってすぐ近くにいた。現在位置は、具体的にいうとおっさんの背後ぴったりである。なお、彼女のみ真顔。
「自分の連れが失礼をした。で、これを殴ればいいのか?」
「シーラお姉ちゃん、殺しちゃダメです」
「それは分かっています」
即答。直後、おっさんがぞぞぞっと身体を震わせた。多分、シーラに睨まれたからだな。見えてないけど殺気したんだろ、分かる分かる。
全殺しはないけれど半殺し……いや、それ以上食らうって分かったんだろうしな。保護者がいようがいまいが、人様にちょっかい出すのはいけないんだぞ?




