087.欲しい得物はどんなモノ?
さて。
メインの目的はシーラの剣を買うこと、である。よって、どんな剣が欲しいのかを本人に尋ねてみよう。
「シーラお姉ちゃん。欲しい剣の好みはありますか」
「好みですか。そうですね……」
なんで聞いてみると、ふむと口元に手を当てて考え込んだ。この仕草、頭が鳥タイプの鳥人でも同じことやるんだろうか。
そんなことを考えているうちに、シーラから答えが返ってきた。
「ほどほどの重さで、普段は両手使いですがいざというときは片手でも扱えるもの。飾りはあまり気にしませんが……」
分かりやすく実用的な好みだな。いや、実用品なんだから当然なんだけど。
飾りはあまり気にしない、と言いながらなんだか俺の方をチラチラ見てるんだけど、どうしてかねえ。
「角飾りがついていると、今は嬉しいですね」
「角?」
剣に角飾り。よく分からんがまあ、本人が嬉しいと言うんならついてるのを探すか。それとも、オプションで付けてくれるのかな。
まあいいか。
「あのう。コータちゃんの角、ではないですか?」
「お?」
ファルンに言われて、あれっと気がついた。そういえば、今のこの面子の中で角生えてるの俺だけだっけ。
えーとその、つまり俺に関する飾りを剣につけたい、でもぱっと見でマーダ教ってバレたらまずいから、ってそういうことか?
「あ、その」
「コータちゃまのおつの、かわいいですもんね」
「あたまにぴたっとしてるから、じゃまになりませんよね」
慌てた反応のシーラに、空気読まないのはいつもの通りのミンミカとアムレクがしれっと口を挟んできた。これ、ウサギ兄妹はフォローのつもりだったりするのかね。シーラ、顔全体まっかっかになってしまってるけど。
よし、俺も空気読まずにダメ押ししよう。ごめんなシーラ、可愛いから許せ。
「シーラお姉ちゃん、わたしの角、好きなんですか?」
「……はい」
ぷしゅー、という音が聞こえそうなくらい顔を真赤にしてシーラは、やっとこさ頷いてくれた。全員苦笑するのはもう、しょうがないよな。
「まあ、シーラ殿がコータちゃんを気に入っていることは分かっていますから」
「カーライル、お前……」
はっはっは、と一人だけ蚊帳の外のフリをしていたカーライルがシーラをなだめに入ってきた。『剣の翼』ルシーラットに睨まれても引かないのは、多分まだ彼女の顔から熱が引いていないから。まあなー、ガチで睨んだらものすごく怖いしな、シーラ。
「それよりも」とさらりと交わして、カーライルは何気に話題をもとに戻した。つまりは、シーラの欲しい剣について、である。
「ほどほどの重さって、どのくらいなんでしょうか? 今使っておられる剣と比べて、になりますが」
「……これより、もう少し重いほうがいい。重心の位置も考えなければならんが、長さはこのくらいか少し長くてもかまわない」
「なるほど」
あ、さすがにシーラももとに戻った。まあなあ、剣欲しいって言ったの自分だしな。それに付けたい飾りが俺の角みたいな感じの飾り、ってだけで。
「ではその線で、剣を作っている工房などがありましたら覗いてみましょうか」
「そうしよう。……すみません、余計な時間をかけて」
「大丈夫ですー。シーラお姉ちゃん、可愛かったから」
カーライルがもとに戻した話題を、少しだけ引き戻してみた。今度は背中の羽がぶわっとなったから、これはこれで面白い反応である。ウサギ獣人だと耳とかで反応するけど、鳥人はあちこちに出るなあ。
「コータちゃん、アクセサリーとかもありますから、欲しいものがあったら言ってくださいね」
「はい、ありがとうございますー」
普通の人間であるファルンは、そんな反応をよそに俺に言ってくれた。
しかしなあ……俺が外見に似合った中身であれば喜ぶんだろうけれど、はて。何か、気にいるようなもんがあるかしら。




