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083.吸って吹き込み忘れさせ

「んー……ふうう、んっ」


 一息に吸った後、俺の気を吹き込んでやる。カロリナは一瞬ビクンと身体を震わせて、それから一気にどろりとだらしない顔になった。

 俺が顔を離しても、そのままで。いや、いくら美人でもそのだらけた顔はどうよ。そうしたのは俺だけどさ。


「ふう。ごちそうさまでした」

「お粗末様で、ございましたわ」


 例によってごちそうさまをすると、カロリナも返事をくれた。よし、吸いすぎってことはなさそうだな。


「姉と同じく、コータ様の支配下に置いていただいたことを深く感謝いたしますわ」

「そうか」


 俺の前に深々と頭を垂れる彼女に、ゆったりと頷いてみせる。吸う前に「ブランナにも、こうやったんだぞ」なんて言ったのが効いたのかな。しかし、もうちょっと言い方あったかもな、俺。

 もっとも、吸って吹き込んでが終わってしまっているので、もうこのまま行ってしまえ。


「今後は、普通にマール教の僧侶として過ごせ。もし、俺たちに何かあった場合には、動いてもらうことになるかもしれないけどな」


 カロリナ自身が好き好んで俺の下僕になりに来たわけではないから、一応そういう保険をかけておく。

 あと、この街の場合は他にもやってもらいたいことがあるしな。


「それと、もし海王ネレイデシアがやってきたなら便宜を図ってやってほしい。今はレイダという名前で動いているはずだ」

「仰せのままにいたします」

「これらの命令と今の俺たちの行為に関しては、ネレイデシアがやってくるか俺からの手紙が来るかまで忘れていろ。その方が、おそらくはお前のためでもある」

「わかり、ました」


 俺の命令を最後まで聞いて、カロリナは一瞬だけぼんやりとした顔になる。けれどその直後にふっと上げられた顔は、ここ……宿の俺たちの部屋に来たときと同じ、普通の僧侶の表情に戻っていた。


「それでは、これで失礼いたします。姉には、手紙でも出しておきますわね。ファルン」

「よろしくおねがいしますね、カロリナ」


 本来の目的、ブランナ絡みの話をファルン相手にしに来ていた彼女は、それだけを済ませたと思いこんでこの部屋を出ていく。

 それを見送って俺と、今挨拶するまでのファルンを含めて何でか全員無言だった同行者たちははあああ、と大きく息を吐いた。特にカーライル、耳まで赤いぞ。


「やれやれ。結構面倒ですな」

「そうだけど、うっかり漏れたりしたら俺たちだけじゃなく、彼女もやばいことになるからなあ」


 耳まで赤いまま、そんなことを言うカーライル。俺がああいう指示出すの、初めてじゃないだろうが。


「マーダきょうしんじゃ、ほんとたいへんです」

「ぼくたち、がんばってかくしてたもんね」


 ミンミカが肩をすくめ、アムレクがちょっとだけ胸を張る。あ、そういえばこの兄弟、うちの連中の中では基本的な俺の信者か。


「……そういえば、ミンミカやアムレクはよくバレなかったな」

「ひみつにすることは、おれもミンミカも、ちいさいころからしっかりおしえられてきましたから」

「コータちゃまのためにも、きちんとひみつはまもるです」

「なるほど」


 言われてみれば、そうだよな。先祖代々俺の信者で、世間的にそれを口外できないんならそこらへん、しっかり教育するよなあ。

 ……カーライルの一族も、そうだと思うんだけど。


「自分の一族も秘密は守ってきたつもりだったのですが……どうやら、裏切り者がいたらしく」

「そういえば、一族全滅したって言ってたっけか」

「はい」


 ……そっちか。いくら仲間内、一族内で口止めをしていたとしても、その中から裏切り者が出たらどうしようもないわけで。

 と、シーラが少し怒ったような顔をして、カーライルに向き直った。


「その裏切り者、分かるか?」

「いえ。死ぬ寸前の身内から、スターレンという名だけは聞いていますが」

「スターレン、か」


 名前だけしかわからないその裏切り者を、多分シーラは斬りたくてたまらないんだろうな。手が腰の剣にかかってる。

 俺としても、そういうやつは放っておくつもりはない。だから、名前を心に留めて、答えた。


「そいつの方も探してみるか。カーライルの仇、ってことになるもんな」

「ありがとうございます」

「気にすんな。さすがに、放っとくわけにはいかないだろう?」


 済まなそうに頭を下げるカーライル。いや、お前さん悪くないから。

 しかし、地味に旅の目的増えるなあ。いいんだけどさ、やることいっぱいあるってことだから。

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