080.観光しつつも考える
その日はもう、風呂を出た後は宿でゆっくりした。何だかんだで、ひどく疲れたしな。
事情聴取はファルンやシーラ、あとカーライルが受け持ってくれたのでウサギ兄妹と俺は爆睡。アムレクとミンミカはちゃんと説明できるかどうか怪しいし、俺は外見上子どもだし。
翌朝、事情聴取された組に話を聞いてみたが俺たちはあくまで巻き込まれた被害者扱いであり、主犯である魚人の女は行方不明とのことだった。レイダ、うまく逃げられたようだな。よかったよかった。
で。
「こちらが、勇者ソードバルがサブラナ・マール様直々にお力を頂いた、『聖なる床』でございます」
まあ、元々見に来る予定だったからいいんだが、俺たちは全員揃って聖なる床の見物中である。
しかし、俺はともかく親子とか結構見物に来てるんだが。大声張り上げて、ここで神様と勇者が数日ずこばことえっちしたんですよーとぶちまけることができる案内役の僧侶さん、肝っ玉でかいなあ。事実に気づいてないわけでもなかろうに。
「ここで神のお力をその身に受けた勇者ソードバルは、その甲斐あって魚人たちの協力を取り付け、海王ネレイデシアを破り封じることに成功しました」
へえ、そうなんだ。……こんとき魚人たちが勇者ソードバルに協力したから今でも普通に生活できてる、とかそういうしょうもない展開なら、教会ぶっ飛ばすぞ。こちらの体制が整ってから、だけど。
「その栄誉を後世に残し称えるため、勇者の生まれたこの街はその名を取りソードバルと呼ばれるようになったのです」
街の命名の由来をオチとして、僧侶さんの説明は終わった。途端、賑やかに拍手が送られる。一応俺たちも手を叩いておこうか、何か言われたら嫌だし。
「はい、ではお時間となりましたので出口の方へ、ゆっくりとお進みくださいませ。本日はご来訪ありがとうございました、皆様に神のご加護のあらんことを」
そんなこと考えてたら、さっさと追い出された。見学時間が決まってて、入れ替え制みたいなもんなんだよね。
あーもー、すっかり俗な観光地化してるし。これでいいのか、サブラナ・マール。
それに、もう一つ困ったことがあって。
「つ、疲れる……」
「コータちゃん、お身体が小さいですからねえ」
「人は多いですし、肩車禁止でしたし」
ファルンが先導して、近くのフードコートまで連れて行ってくれたので椅子に座ってぐったりした。この身体になってもまあまあ体力はある方だ、と思うんだがメンタル的に疲れる。
カーライルの言う通り、肩車禁止で……これはまあ、人が多いから危ないってことだろうけどさ。小さいと見えにくいんだよね。
それは俺だけじゃなくて、親子で来てた子どもさんとかもそのはずだし。
「小さい子にもちゃんと見られるように改善を要求するー」
「ようきゅうするー」
「ミンミカはちいさくない、とぼくはおもうんだけど」
うん、アムレク、俺もそう思う。何で俺の真似をするかな、かわいいから良いけどさ。
ファルンがそれをどう思ったのかは知らないけれど、でも「そうですわね」と頷いてくれた。
「一応、上申しておきますわ。今までにもそういった意見が出されていないはずはない、と思うのですが」
「ですよねえ。観光名所なんですし、小さな子に大切な場所を安全に見ていただきたいはずですから」
しれっとマール教っぽい会話を交わすファルンとカーライル。いや、ファルンは一応僧侶のままだけど。
「そういえば、魚人たちにも敏感肌の者がいる、という話だったな。彼らのためにも、何とかならないか」
「確かに。一緒に拝見していた方々にも、魚人の方はいらっしゃいましたし」
シーラが挟んできた言葉に、魚のお姉さんがぽろっと漏らしてくれた言葉を思い出す。
魚人たちが地上に上がれるようになったのは、『今は祈ることができない神様』がそうしてくれたから、だという。
……やっぱ、俺だよな。実際、確認しようがないんだが。少なくともサブラナ・マールじゃねえ、ってのは分かってるし。
それが、マール教曰く勇者ソードバルに協力した、ことになってるわけか。
まあ、いろいろあったんだろうけれど。
「カーライルお兄ちゃん」
「はい」
この中で一番詳しそうなのは、マーダ教の神官であるこいつだ。もしかしたら、なにか知っているかもしれない。
他の誰かが情報を持っている可能性もあるけれど、皆で話をすれば分かることだ。
「宿に帰ってから、お話があります」
「分かりました」
だから、一応誰にも聞かれない場所で俺は、話を聞いてみることにしよう。




