076.邪神と幹部とその下と
さすがに四天王の一人、海王を名乗るだけあって迫力はすごいな。シーラが小鳥って感じのレベルだよ、ほんと。まあ、タコだけど。
そのシーラや、他の連中はさすがに固まってるけど……俺は結構平気だな。やっぱり、神様だと違うのかね、こういった感覚。
「俺だ」
黙っていても話が進まないので、名乗り出た。俺のほうが背が低いんだが、ネレイデシアは腰を下ろした格好なんで……大体目の高さが同じくらいだよこんちくしょう。
「……」
というわけで、真正面から見つめ合いというかにらみ合いというか。四天王にビビってる場合じゃないんで、俺が目をそらすことはしない。
ところで、多分こいつの知ってる邪神と今の俺とじゃ外見違うと思うんだけど、分かるんだろうか。シーラは分かってくれたんだけど……だ、大丈夫だよな?
「……よもや」
じっと俺を見つめていたネレイデシアが、何度か目を瞬かせてから軽く首を傾げた。それから少し考え込む表情になって、そして。
「我が神、アルニムア・マーダ、様」
「サブラナ・マールのせいでこんな姿になっているけどな」
よし、ちゃんと分かってくれたようだ。
というか俺、マジで邪神だったんだな。何しろ俺自身、全く自覚がないもんだから。
けどまあ、実際にそうらしいし。なら、そうやって振る舞おう。
「ここにいるファルンは俺の下僕で、他は皆、俺の信者や配下たちだ。心配しなくていい」
「はっ」
そんなわけで、一応ちゃんと教えておく。特にファルンはマール教の僧侶そのまんまだから、多分警戒してたんだろうな。
圧力みたいなものがふっと消えて、ネレイデシアは俺の前にひざまずき頭を垂れた。
そうして顔をあげると、あら満面の笑み。
「サブラナ・マールとの戦より幾星霜。再び御身に仕えることができ、嬉しく思います」
「ありがとう。ネレイデシア」
「……っ」
ありゃ。
名前呼んだら、髪の毛に混じってるタコ足がぶわっと広がって色も赤っぽくなった。え、これ嬉しいって意思表示か。犬のしっぽ、というか俺のしっぽみたいなもんか。
地味に可愛くね?
「ネレイデシア様」
妙な方向に行きかけた俺の思考を引き戻したのは、シーラの声だった。ネレイデシアの前に膝を付き、こちらも頭を下げる。
「先程までのご無礼、どうぞお許しくださいませ」
「……お前、確かアルタイラのところの」
「はい。ルシーラットにございます」
あ、そっか。シーラは立場がネレイデシアより低いから、こうなるのか。
いや、とっ捕まえろって言ったの俺だけど。
「構わん。記憶が継続しているから分かるが、アルニムア・マーダ様のご指示なれば私が許すも何もない。そこの二人も、案ずることはないぞ」
「ありがとうございます」
「お心遣い、痛み入りますわ」
「ありがとうございますー!」
そこら辺はネレイデシアもわかってくれてたらしく、だからシーラも俺もホッとした。あと、ファルンとミンミカも胸をなでおろしたようで何より。
いや、ここでモメても俺が怒ればいいんだろうけどさ。一応、一番えらいの俺なわけだし。
「それより、ルシーラット。ひとつ聞きたいのだが」
「は」
と、ネレイデシアがシーラに向き直った。はて、何かあるんだろうかと思ったら。
「アルニムア・マーダ様がひどく可愛らしくなっていらっしゃるのだが、まことサブラナ・マールのせいか?」
「は、そのようでございます」
「いやお前何聞いてんだ」
「失礼いたしました」
即ツッコミ入れた俺、悪くないよな?
あと、……もともとネレイデシア、ロリっ子スキーだったりする? 何か俺の方チラチラ見ては、タコ足がふわっと広がるんだが。
なんだろうね、あの感情表現。いや、かわいいんだけどさ。




