072.その目的は、ずれてねえ?
「レイダさん、ズノッブさん、そろそろ……何してるんすかお二人とも」
大変ベタなタイミングで、扉が開いた。ひょこっと顔を出したどう見てもモブっぽいチンピラが、すごく困った顔をしている。こいつは人間だな、ぱっと見は。
ああ、やっぱり他にも人がいた。いや、いなきゃ大変だろうけどさ。
「いや、この兄ちゃんが言うこと聞かないもんだからつい」
「いや、この嬢ちゃんが言うこと聞かないもんだからつい」
んで、ハモるなイカタココンビ。どっちもどっちだな、お前ら。
カーライルがうんざりした顔をしているところは、レイダには見られていないようで何より。何しろチンピラに視線が行ってるし。
「そういうのは、終わった後にしてくださいや。一応、準備はできてるんすから」
「分かったわよ。じゃ、お兄さん、あとでね」
準備?
「待て、何をする気だ」
「ええ。さっきの僧侶サマを生贄にして、神のお力を我々にいただくつもりなの」
「は?」
カーライルの問いに、レイダは平然と答えた。何というベタベタすぎる展開だ。
というかその神ここにいるんだけど、気づいてないからなあ。あと神の力ってどうやってプレゼントすればよいのやら。下僕にする時みたいに精気吹き込むんじゃないっぽいし。
……そういえば、カーライルは俺の呼び戻しに生贄とか、使わなかったんだろうか。
ふと気になったけど、その前に知ってる名前が出てきた。
「本当は、エンデバルから仕入れるつもりだったんだけどねえ。アンディスの奴、何バカやってんだか」
アンディスって、あの人売りか。エンデバルの前にお世話になったというか、ゴチになったというか。
そうか、あそこから僧侶仕入れる予定だったのか。あららかわいそうに……いや、そうじゃない。
「ほら、ズノッブ行くよ」
「ちっ。じゃあ嬢ちゃん、後でな」
「だから、あの嬢ちゃんは駄目だって言ってるだろ」
イカ男め、マジで俺狙ってくる気かよ。うげー……と思いつつ、チンピラと一緒に出ていく二人を見送る。
幸い外見上ただの獣人ロリっ子なんで、何かできるとは思ってないんだろうなあ、あいつら。
扉がバタンと閉じたところで、はあとカーライルが大きく息を漏らした。まだ、しんどいのかもしれないな。
「アンディスとは、たしか人売りの女でしたよね」
「おう、そうだ」
こいつも覚えてたか。まあ、ちょっとしたハプニングだったしな。
よっこいしょ、という感じで座り直すカーライル。麻痺がまだ完全には取れてない、と。さすがにこれは呪いとかそういうのじゃなさげだし、カーライルの杖じゃ解除は無理かな。
で、さっき気になったことをなんとなく聞いてみる。
「カーライル。こんなときに何だけど」
「はい」
「俺を呼び戻すとき、生贄使ったか」
「はい。人ではなく、獣ですが」
あ、そっちなんだ。いや、神様の中身引っ張ってくるんだから、人でもおかしくはねえなと思ったんだけど。
「人じゃないんだ?」
「私単独での儀式でしたので、人を調達するには人手も力も足りませんでした」
「……そりゃそうか」
レイダたちは、複数人で生贄を調達している。それは、単独でそんなことやってたらとっても手間がかかるし時間もかかるから。
つか、動物でやっててもファルンとシーラに感づかれてたしな。
……それでよく戻ってきたな、俺。よっぽど社畜生活に疲れてたのかね……ま、いっか。
「……神の力、出てくると思うか?」
「そのようなことを私に言われましても」
「だよなあ」
何か変なこと聞いてごめん。正直、出てくるならちょっとだけ儀式に協力してやってもいいかなって思ったんだけど、望み薄って感じだよな。第一今の俺、砕けて壊れてすり減った神の魂の最後の一欠片、みたいなもんらしいし。
「この場合の生贄て、殺すのとヤるのとどっちかね」
「おそらく後者かと。……あ、私は違いますよ?」
「そりゃそうだろ」
さすがに残念イケメンでも獣姦は御免こうむる。この場合、獣人などの相手は数に含まない。
それはそれとして、つまり少なくともファルン、多くて他にも数名の僧侶がえらいことになりそうだというこった。
「人の下僕に手出すんじゃねえよ、ったく」
何かムカつく。ファルンは俺の大事なご飯であり下僕なんで、ぽっと出のイカタコ軍団に渡す気はない。
でも、俺自身いまいち力がない。カーライルも戦力としちゃそもそもイマイチだし。
そうなると、答えは簡単だ。
「シーラ! 遠慮しなくていい、やれ!」
「承知!」
声聞こえるかな、と思って思い切り叫んだけど、安普請なのかうまく届いたようだ。
何しろ、即座にバキバキと板壁ぶっ壊す音が聞こえたから。




