071.いまいち目的分からねえ
連れてこられたのは、裏通りの奥の奥にある推定元飲み屋。中に入るとすぐバーカウンターっぽいものといくつかのテーブル席があって、でも長く使われていないのはひと目で分かった。カウンターもテーブルも、ホコリかぶってるしな。
その店の奥に入ってすぐ、小さな部屋にファルンが押し込まれた。レイダが部屋の中を覗き込むようにして、声をかける。
「僧侶サマはこちらに入っておいてくださいな。おとなしくなさってたほうが、身のためですわよ」
「はい」
「ウサギと鳥はそっち。人質の二人は持っておいで」
「へーい」
ミンミカとアムレク、それに剣を取られたシーラはファルンの入った部屋の隣。で、俺とカーライルはズノッブに担がれたまま、店の奥のおそらくは居住スペースだったちょっと広い部屋まで連れて行かれた。
他の部屋は知らないけれど、この部屋にはソファとベッドがあった。俺とカーライルは、これまたちゃんと敷いてあったラグの上にぽいと放り出される。
「さて」
ズノッブを脇に控えさせて、レイダがソファにどっかりと腰を下ろした。
タコが偉いさんでイカがその側近だか部下だか……刺身で食ったら美味そうなんだけどなあ、とは頭の中だけで考えておく。特にズノッブことイカ兄ちゃん、よく見るとイカなんで白っぽい皮膚がうっすらと透けてたりしてさ、イカそうめんにしたらきっと絶品なんだろうな。
ま、それは置いといて。
「なぜ、このようなことをするんだ?」
「もちろん、我らが神アルニムア・マーダ様のためよ」
麻痺が落ち着いてきたらしいカーライルが、何とか上半身を起こしながら問う。それにレイダは、何というかやっぱりな、という答えをくれた。いや、俺のためって言われてもなあ。
「我らが神を貶めたサブラナ・マール、その下僕どもを生贄にすれば神はきっとお喜びになる。そうして、我らのもとに戻ってきてくださるわ」
もう帰ってきてるけど。
そんなこと言っても、ウソつけって返されるだろうから黙っていよう。あと、俺そんなもの捧げられて喜ばねえわ。生きてる女の子なら吸えるからいいけどさ。
「具体的に、策はあるのか?」
「ないわよ。マール教のせいで、この近辺からマーダ教の書物は綺麗になくなっちゃってるもの」
……てことはレイダ、タコ姉ちゃんのあんたよりカーライルの方が、マーダ教関連の知識はあるんじゃねえか? ま、カーライルがマーダ教の神官だってことも知らないわけだけど、こいつら。
気づかないもんかねえ。そういうものなのかもな、ミンミカも気づかなかったし。
「お兄さんは、我らが神の好物だから取っといて差し上げたの」
ふふん、と偉そうに笑いながらレイダは言う。
そういや昔のアルニムア・マーダって、柔らかく言って男好きだったっけな。カーライルがこっちに持ってこられたのはそれでか。
いや、俺は女の子のほうが好きなんだが。
で、俺は何でこっちに連れてこられたんだ?
「では、この子はなぜ?」
「だって、ちっちゃい子は可愛いし」
カーライルも同じことを考えたんだろう、質問したら答えがそれだった。しかも頬に両手あててうっとり、って。
お前そっちかー! いや考えてみると俺もあんまり変わりないけど! いやいや俺は自分が外見ロリっ子なだけであって、おっぱいある方が好きっちゃ好きだけど!
「ダメです、コータちゃんは渡しません」
「あんたに選択の余地はないの」
「いきなり拉致っといて選択の余地も何もありませんよ。コータちゃんは渡しませんので」
「だから、あんたは今そういう立場じゃないの」
すごく不毛な言い合いが始まってるんだが、これどうしよう。
そんなふうに思ってズノッブに視線をちらっとやったら、ニヤニヤ俺の方見てやがる。あ、これやべえパターンかも。
「レイダ。俺にも分け前くれるはずだったろうが」
「ああ、そうだねえ。でも、この子は駄目だよ?」
「ふざけんな。俺の好みにぴったりだろうが!」
やっぱりかー。
いやもう、ピンチの時のイヤボーンに頼るには不確定要素すぎるし、さてどうするかなあ。
てか、この二人しかいないのかね、ここ。




