067.見てるあなたはいまどこに?
「ごちそうさまでしたー」
全員が食べ終わったところで、空になった食器を集める。使い捨てというわけにはいかないようで、特にウサギ兄妹のサラダはちゃんとした木の食器に盛られてた。
それぞれの屋台に回収するための麻袋があるので、そこに放り込むのが定番らしい。あ、串もな。
「さて、これからどうします?」
まず声を上げたのはカーライル。ただし、周囲に悟られないように小声だけど。もっともここ観光地のフードコートなんで、周囲は人多いけど飯食ってるしぎゃあぎゃあ騒いでるし、とこの辺はこちらの世界でも変わらないので助かるかな。
「教会に、顔を出しておきたいですわ。聖なる床ではなくて、実務を担当している方に」
答えたのはファルンだった。新しい街に来ると教会に行くのはまあいつものことだし、マール教の僧侶としてそれは当然のことなんだろう。
ルシーラットに戻る前からファルンと付き合いのあるらしいシーラが、彼女の言葉を聞いて頷いた。
「聖なる床には明日行くつもりですが、実際の業務を行っている教会が街中にありそうですね」
「じゃあ、そっち行くかあ」
「修行中の僧侶ですし、一応顔を出しておきませんとね」
まあ、俺としても教会行きに文句をいうつもりはない。つか、美味そうな姉ちゃんいたらラッキーとか思うわけだし。
僧侶は女性ばかりだから、うまく行けばこの街に俺の下僕を配置することができるからな。
アムレクとミンミカは、どうかな。
「ミンミカ、きょうかいにいくのはだいじょぶです」
「ぼくも、へいきです。きょうかいには、おせわになったから」
「では、決まりですね」
ミンミカはまあしょうがないとして、アムレクはエンデバルでお世話になってるからな。この際マール教だのマーダ教だのは置いといて、お世話になったところにお礼に行く……かどうかは別だけど問題なさそうだ。
「それじゃあ、教会に行きましょうね。コータちゃん」
「はあい」
周囲に聞かせるように少し大きな声で呼ばれたので、俺も大きな声でファルンに返事した。
のんびり街中を歩いていると、何というか視線を感じた。めっちゃ敵意感じるんだけど、これは俺向けじゃない。
「コータ様」
「警戒だけしておけ」
多分この手の視線には俺より敏感なシーラが、小声で俺の名を呼んできた。ひとまず、短く指示を飛ばす。
「喧嘩は売られてから買っても、問題ないだろう?」
「は。もちろんです」
俺に向けた敵意ではないけれど、俺の周りにいる誰かに対するものであることは確かだ。だから、その主が何がしかの攻撃を仕掛けてくるならそれは俺に対する宣戦布告とみなす。俺の配下であるシーラが剣を抜いても、何も問題はない。
「コータちゃん、大丈夫ですか」
「私に向けてじゃないですから」
カーライルとは、一応外見に則った言葉遣いで会話してみた。ミンミカが耳を揺らし、アムレクが鼻を鳴らしながら周囲に視線を巡らせる。ファルンは……普段どおりだけど、気づいてないとは思わないな。
「しつこい視線ですわね」
ほら。
ふん、と呆れ顔になりながらファルンは、足を止めない。あー、多分これ、狙いが誰か気がついてるな。
「どうして、こそこそかくれてみてるんでしょう?」
「マーダ教信者だろ。表に出てこられないから、隠れてるんだ」
ミンミカの疑問に、小声で答える。ミンミカ自身もマーダ教なんだけど、彼女やアムレクは信仰隠して表歩いてるからな。
隠れてみてるのは、信仰を隠したくない代わりに身を隠す。悪いとは思わない。
「ここはマール教にとっては勇者が勝った聖地ですが、マーダ教にしてみれば四天王の一人が負けた土地ですからね」
「更に、屋台で海王の足焼き、などというものが売られている。それ自体、マーダ教には海王を貶める行為と見られてもおかしくはない」
カーライル、そしてシーラが俺の言葉についてくる。
……美味かったけどな、海王の足焼き。でも、ネレイデシアにしてみたら屈辱だろう。会ったら謝っておこう、うん。
「不満分子がそこかしこにいても、まあおかしくはないでしょう」
「ということは、睨まれているのはわたくし、ですわね」
「ええ」
カーライルとファルン、普通に見れば結構お似合いのカップルだったりするんだろうけど、会話内容は微妙に物騒なんだよな。
もっとも、俺の下僕であるファルンがいやな視線ぶつけられてるのは間違いないわけで、だからカーライルも神経が尖り始めてるのが分かる。
「まあ、目立つところで何かふっかけてくるならそれはただの馬鹿だ。シーラ、死なない程度に適当にあしらえ」
「承知しました」
といってもうちのメンバーで一番強いのはシーラなので、俺は彼女に指示しておいた。
ほんと、うっかり殺したりしたら裏とか黒幕とかマーダ教の事情とか分からなくなるもんな。




