065.屋台で売ってたえらいもの
入江をのほほんと歩いていると、さすが観光名所というか屋台が多い。ガスや電気がない世界だから、焼くものは基本炭火焼きみたいだな。たまにかき氷みたいなの売ってるけど、あれはどうやってるんだろう。魔術師でもいるのかな。
ま、そのうち分かるだろ。それよりも、何かいい匂い……イカ焼きみたいな匂いがしてきた。
「あら。コータちゃん、どうなさいました?」
「え?」
ファルンに尋ねられて、自分のしっぽがぶんぶん振れてることに気がついた。いや仕方ないじゃねえか、うまそうな匂いなんだもん。
「あ、あれ、いい匂いだから」
「あれですか……む」
俺が指差した、匂いのする方向。そちらに目を向けたシーラが、眉間にシワを寄せた。ありゃ、何かまずかったかな。
「『君も海王を食べて勇者になろう! 名物・海王の足焼き』だそうです」
「ぶっ」
イカ焼きというかタコの足焼いた匂いか、これ。海王の足、ってことはつまりそういうことだよなあ。うわあ、地雷踏んだか、俺。
「……いやいや、魚人たち大丈夫なのか、こういうの売ってて」
「あまりいい感じはしないようですね。よく見てみると、海のそばなのに魚人族はほとんど見かけませんし」
くるりと周囲を見回して、シーラは難しい顔のまま納得したように頷く。ああ、ある種同族食ってるようなもんだから近寄りたくねえってか。分かるけど。
でも、タコの足うまそうだなあ、くそう。
「……少々、お待ちくださいませね」
そんな俺見てか、ファルンがにっこり笑ってそっちの屋台に歩いていった。で、店主と話ししてる。
「一本、いただけますか」
「毎度ありー。二百イェノになります」
「はい、二百イェノですね」
「ちょうどいただきます。またどうぞ!」
ありゃ。ファルン、平然と一本買って来ちゃったよ。そして戻ってきて、俺に差し出してくれる。
「はい、コータちゃんどうぞ」
「あ、ありがとう……」
いや、いいのかなと思いつつ受け取ってしまうところは……だってさ、太い串に刺さったタコの足一本、醤油で味付けした感じの匂いでさ。……醤油あるのかな。魚醤とか、そのあたりか。
「買ったんですか」
「こういうところで焼かれているのは魚人ではなく、食用のものでしょうから」
カーライルが尋ねると、ファルンは笑顔のまま答える。ああうん、さすがに魚人食うとかそういうことは……ええと、ないよな?
ま、もしそんなバカタレがいるんであれば遠慮なく叩き潰すけど。あ、その前に衛兵さん呼んだほうがいいかな。
「コータちゃんが食べたいようでしたので、一本だけ。特にアムレクさんとミンミカさんはウサギ獣人ですから、これは食べないでしょうし」
「はいです。もらってもこまるです」
「おにくやおさかなは、おなかをこわします」
名前を出されたウサギ兄妹はこくこくと頷く。うん、地味にウサギだからちゃんと草食なんだよな。そんなところは俺の知ってる生態系とさほど変わりないから、結構助かってるんだけど。
……ところでさ。
「みんなは何食べるんですか? 私だけ食べてたら、何というか、その」
一応、気には掛ける。一人だけ食いもん、しかも自分の配下ネタのもん食うのって気がひけるし。
なんで、一応みんなにも尋ねてみたんだけど。
「他にもいろいろありますから、皆さん好きなものにすればよろしいですわよ」
「それもそうだな。では、自分は小鳥の丸焼きを買ってこよう」
っておいシーラ、要するに焼き鳥だろうがそれ。いいのかよ……いいのか、肉食の鳥なら小鳥は食いもんだものな。何あのすっごい上機嫌顔。
「サラダたべるですー」
「あ、ぼくもサラダにするです」
草食なので、この二人は分かる。つか、サラダ屋台ってあるのか。傷まないのかね……かき氷を出せるんだから、冷やして提供できるってことかな。それならいいんだけど……ああ、二人して耳がぴるぴると楽しそうに揺れている。
残るは人間の二人なんだけど、さて。
「ファルンとカーライルは?」
「わたくしは、焼きまんじゅうがいいですわ」
「私は焼きとうもろこしを」
……えーと、ここ夏祭りの会場だっけか。
まあ、それだけ俺にも分かりやすい世界でほんと、助かった。




