062.やってきたきた観光地
乗り合い牛車で、片道二日。とはいえ山道をガタゴト行くのではなく、それなりに舗装……じゃねえな、石畳の敷かれた道を進んでたんで乗り物酔いがそんなにひどくなることはなかった。
まあ、全部の道が石畳仕様になってたわけではなくて、街を離れると普通に土の道だったけど。
何でも街のお金持ちが金出して、衛兵とか人雇ったりとかあとマール教の力借りて石畳を貼るらしい。マール教の力を借りると、神へのご寄付とかそういう扱いになるんだとか。
で、二日目の夕方前くらいに牛車は、目的地に到着した。専用の降車場があって、手形などのチェックは降りたところでやるんだとか。ココらへん、観光地だししっかりしてるみたいだな。
「おまたせしました。ソードバルの街、牛車駅到着でございますよう」
「はあい。皆さん、降りますわよ」
御者さんののんびりした声に、ファルンがのんびりと反応した。俺たちの乗ってる牛車には親子連れとか商人さんとか、色んな人が乗り合わせている。その誰もが、マール教の僧侶である彼女の声で一斉に動き出した。
あ、いや、一人だけ遅いやつがいるな。
「こ、腰が固まった……」
「カーライルお兄ちゃん、大丈夫ですか?」
俺の横で周囲に気を張っていたカーライル、その人である。微妙に変な座り方してたもんだから、腰をおかしくしたみたいだな。
俺を心配してのことだとは分かっているから、一応気には掛けてみるけれど。
「あ、はいだいじょうぐっ」
「案ずるな、後で自分が揉んでやろう」
「お手柔らかにお願いします……」
シーラが面白がってるんだよなあ、この状態。彼女、あんまり表情変えてないけれど自分から絡みに行くんだから、確実に面白がっている。頑張って耐えろ、カーライル。
そんなことをしている間に皆、牛車を降りる。しっかりした地面に足をつけてうーん、と大きく呼吸すると、おやと思った。
何というか、懐かしい匂いというか。
「かぜが、おしおっぽいですー」
「ほんとうだ。しおっぽいにおいがする」
「海のそばですからね」
ミンミカとアムレクは俺たちより鼻が利くせいか、二人して鼻をひくひくさせて匂いを嗅いでいる。ファルンの答えにああ、こっちでも海はしょっぱいのか、と納得した。そりゃ懐かしいよなあ、一応あっちでも海に行ったことはあるんだし。
もっとも、タコ魚人とかいるらしいしなあ。生態系とか環境とか、そんなにあっちと変わってないんだろう。おかげで、暮らしててもあまり違和感なくて助かるけどさ。
「さて、手続きに行くぞ。カーライル」
「だから腰を叩かないでくださいっ」
シーラ、力抜いてるとは思うけどやっぱり痛いぞ、多分。カーライルはあきらめろ、同じ男でもアムレクがそれ食らったら確実に吹っ飛ぶからな。
「いらっしゃいませ、ソードバルへ!」
関所というか窓口、というか。そこへ行くと、衛兵さんがえらくテンション高く迎えてくれた。多分、ファルン見たからだろうな。僧侶は分かりやすいから。
「おお、修行中の僧侶様御一行でございますか。よくぞ、勇者の故郷ソードバルへいらっしゃいました、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
手形と同行者のチェックをしながらも、この緑髪天パの小柄な衛兵さんはやっぱりテンション高めである。というか、この人これが通常状態なんだろうか。ファルン、全力で引いてるぞ。
「是非、勇者ソードバルの討伐記念碑と聖なる床はご参拝くださいませ!」
「ええ、もちろんそのつもりですわ。ご親切、痛み入ります」
そこはここの観光名所だろうが、もっと他に行くところないのか。住民ならではの、うまい店とか穴場とか。
……無理かな。ま、いいか。その辺は頑張って探そう、うん。
「どうぞ、お通りくださいませ。良い旅を!」
最後までテンション高かったな、となんとなく遠い目になりながら関所を出る。後ろで「ようこそソードバルへ!」と同じテンションでやってる声が聞こえたから、ありゃ完全に地か。疲れないのかねえ。
そうして、やっとこさ街の中と呼べる場所に出てきた。空は高く青く、ここからだと海は見えないけれど潮の香りが風に交じる街。
『勇者ソードバル生誕・海王撃破の地 ソードバル』
……このえげつない看板が語る、街に到着した。マール教信者ならきっと、やっと来たぞどきどきわくわくとかするんだろうけどな。




