061.ウサギ娘はげんきっこ
落ち着いたところで。
牛車で二日ばかりかかるなら、今のうちに吸っとこうと考えるのは悪くないよな。
「ところでミンミカ」
「はい?」
「腹減った。そっちの意味で」
「わかりましたあ」
さっきから吸いたいなーと思ってたんで、速攻でミンミカを指名する。向こうも慣れたもので、ほいと俺を抱っこして膝の上に乗せてくれた。
「扉の方は自分が見ております」
「外はわたくしが見ておきますねえ」
シーラとファルンもさっと警戒に入ってくれるのは、とてもありがたい。他人の精気を吸う種族っていうのが、今でもいないわけじゃないだろう。でも、あまり大っぴらにやるもんじゃねえしな。
……そういえば、この場面初見のやつがいたな。言うまでもなく、アムレクだけど。
「アムレク、ぽかんとするな。コータ様のお食事の時間だ」
「わわ、すみませんっ」
カーライルが、不思議そうにこっちガン見してたアムレクの首を軽く横に向ける。いや、アムレクもその反応なのかよ。痛いとか言わねえのかよ。まったく、天然なんだよなあ。
「よしとりあえずあっちの部屋行こうなー」
「は、はいいいっ」
その天然ウサギ男をカーライルが隣の部屋まで引きずっていったところで、俺は改めていただくことにした。いや、アムレク見ててもいいんだけど、騒いだりしたら面倒だし。
「んじゃ、いただきます」
「よろしくおねがいしますーんふっ」
とはいえ精気はとっとと吸いたいので、遠慮なくミンミカの口元に吸い付いた。ん、やっぱ青臭い……というか、草だな、これ。一応草食系ではあるんで、間違ってはいないんだが。
ほどほどまで吸ったところで、離れる。ほにゃーんと笑っているミンミカに、いつものように挨拶をした。
「ごちそうさまでした」
「おそまつでしたー。……んー」
ミンミカも答えてくれたんだけど、ふと何か不機嫌っぽくなった。いや、特に怒らせるようなことはしてないと思うんだけど……なんて考えてたら、こいつ妙なことを言い出した。
「なんでコータちゃま、オスじゃないですか?」
「はい?」
「コータちゃまがオスだったら、ミンミカ、いっぱいこうびしたいです」
ぶほ、と吐き出さなかっただけほめてくれ。俺にはケモナー属性は……ない、と思うんだがミンミカ吸えるしなあ。
もしかしたら、こっちに来て割と何でもOKになったとか、そういうことかな。しかしタコは……タコなあ、うーん。
「よしひとまず寝ろ発情ウサギ娘」
「ごっ」
わけが分からない思考に陥りかけた俺の目の前で、ミンミカがノックアウトされた。呆れ顔のシーラが軽く振り下ろしたげんこつのせいらしい。
くたっとなったミンミカには目もくれずに、シーラは頭を下げた。
「失礼いたしました、コータ様」
「いや、ものすごく助かった。この体格差じゃ俺勝てないし」
「さすがに、吹き飛ばすわけにもいきませんものねえ」
「あー」
窓から戻ってきてミンミカに布団を掛けてやるファルンの言葉に、ふとこっちで目が覚めてすぐのときのことを思い出した。
あれな、お約束のイヤボーン。シーラふっとばしたやつ。
あれ、自在に使えるようになったら俺、楽に戦えるかねえ。
そんなこんなで、ソードバル行きの牛車が出る時刻になった。
隊長さんとガゼルさん、そしてスカラさんの同僚の僧侶さんたちが見送りに来てくれた。
「それでは、皆様。お世話になりました」
「いやいや。こちらこそ、あなた方のおかげで悪党を捕縛することができましたからな」
「衛兵隊の方々のおかげです。自分たちは助力したまでのことで」
しとやかに頭を下げるファルンに、隊長さんが軽く手を振りつつ答える。シーラが平然と答えたのは、まあそれでいいからだよな。俺たち、別に恩売るつもりでやったわけでもねえし。
ガゼルさんは俺の頭を撫でてくれながら、「またエンデバルに来てほしいっす」なんて言ってくれた。
「ぜひ、機会がありましたら寄せてもらいます」
カーライルはそう答えてくれたけど、何の機会があったら来られるかな、とは思う。
この世界を侵略する気にでもなったら、来られるかね。いや、そんなめんどくさいことはしたくねえけどさ。
「良い旅になりますよう、お祈りしております」
「はあい。またきますー」
「おせわになりました」
僧侶さんにミンミカと、そしてアムレクが頭を下げる。さあ、そろそろ出立の時間だ。
行こうか、ソードバルに。




