055.うさぎも鳥も強いんだ
「アムレク! 何やってるんだ、早く他の僧侶たちを引きずり出してこい!」
「……ん?」
偽スカラこと髭面かっこ仮名、が教会の方を振り返って叫んだ。あれ、今呼んだ名前って。
「アムレクて」
「おられたんですか」
シーラもファルンも気づいたようだ。うつ伏せのままのカーライルも、「……いたんですね」と一言。お前はおとなしくしてろ、どうせ今何もできないんだし。
しかし、呼んでも出てこない相手に髭面は苛立つ。まあ分かるけど。で、もう一度名を呼んで。
「アムレク! いい加減にしぎゃっ!」
「うるさいですー」
出てきたのはアムレク、ではなくて実はその妹である、ところのミンミカ。なお、髭面は彼女が蹴飛ばしたモブチンピラの直撃を受けてひっくり返った。
むすー、と不機嫌な顔をしてるミンミカは珍しいな。あと、同じロップイヤーな男を連れてきてるところも。着の身着のまま、って感じでえらくこき使われてたような感じだ。
「アムレクおにいちゃん、こきつかって、しつこいー」
「み、ミンミカ、つよくなったね……」
「ミンミカ、おにいちゃん、さがしてたから!」
むん、とウサギ男に向かってガッツポーズしてみせるミンミカ。……今の会話からすると、あのブラウン系垂れ耳ウサギ男、ミンミカの兄貴か。えらく気弱だな、おい。
いや、ミンミカがえらく強気になったのか。……俺のせいか?
ま、いっか。裏から回って中の人たちを保護、抵抗するやつぁ全力でひっかけ、という俺の指示を聞いてくれたようなので褒める。
あ、汚れた手はそのままでひっかけ、とも言っておいたんだけどな。けけけ。
「おー、ミンミカお姉ちゃんすごいー。よくがんばりましたー!」
「コータちゃまー、ミンミカがんばりましたよー! アムレクおにいちゃん、みっけたですよー!」
「コータちゃま? あ、ミンミカがいってた」
ええいバカ兄貴、妹より耳を激しく震わせるでない。あれが姉貴だったら後で頂いてたところだ、こんちくしょう。なぜオスなんだー、と心の中だけで叫んでおく。
その横で、ファルンが慌てて垂れ耳兄妹を引き取りに行く。ついでに中の状況も聞いてくれるようだ。
「で、中の方々はどうなさいました? 伺うまでもないと思うのですが」
「えーと、わるさしてたひとたち、ぼこぼこに、しました! おにいちゃんも、てつだってくれました!」
「そうりょたちは、いっしょにぼこぼこしたあと、うらからにげた。だから、だいじょうぶ」
「なるほど。さすが」
……ミンミカが兄貴とマジモンの僧侶を解放、多分他の住民とかも解放できたんだろう。で、みんなで敵をフルボッコにして逃げた、と。その最後の二人が、髭面とそれに投げつけられて「邪魔だ、てめえ!」と地面に放り出されたモブチンピラ、か。
ご愁傷さまでした、このクソ髭面。大事なおっぱいを返せこの野郎。
「まあ、それはそれとして」
衛兵たちは教会内に突入して、中でボコボコにされた連中の確保をするようだ。こちらには俺たちとガゼルさん、隊長さんが残ってる。その視線の中で、シーラは抜きっぱなしの剣の切っ先を、髭面に突きつけた。
「さて、この偽僧侶め。一撃で苦しむことなく死ぬのと、生かしてはやるがエンデバルの衛兵に引き渡されるのと、どちらを選ぶ?」
「ぐ……」
髭面は一瞬たじろいだように見えたんだけど……いや、気をつけないとな。変装魔術使えるレベルの魔術師、つまり魔術使わせたら強いやつ、なわけで。
「どちらも選ぶかあ!」
「っ!」
モブチンピラが持ってた棒を下からすくい上げるように振ったのに、シーラは思わず反応してわずかに後退する。その隙に、短い詠唱が完成した。
「雷よ、我に力を与えよ!」
「ちっ!」
ばしんばしん、といくつかの雷が降ってきて、髭面とシーラの間に着弾……着弾? まあいいか、要するに落ちた。そのうちひとつがうまいことシーラの剣をかすめたらしく、彼女は剣を取り落とす。
「これなら剣は使えまい! さあ雷よ、もっともっと我に力を与えよ!」
「……ああ、そうだな」
この髭面親父、雷馬鹿か。まあ、それでシーラから剣を奪ったようなもんだから図に乗るのは当然、というか。
ただなあ……いくら『剣の翼』ルシーラットでも、剣術だけで二つ名持ってたらそれこそ苦労はしないよな。
第一、武器を振るうには基礎体力が必要なんだ。
「なれば、これで勝負だ」
だからシーラは、拳を握って軽く重心を落とす。ばさ、と翼が一度、空間を打った。




