054.化けの鱗を剥いだなら
さて。
教会まで戻ってきたのはいいけれど、誰が声をかけるんだよ。
隊長さんやガゼルさん、さすがにちょっと困った顔になってる。他の衛兵さんも、相手がマール教じゃやりにくいよな。
俺はたまたまくっついてきてるロリっ子という扱いだし、カーライルは杖の能力使わなくちゃいけないんで緊張してるし。
ファルンはどうしようかと考えているようだけど……あと、ミンミカはここにはいない。
「では、自分が参ります」
そんな中名乗り出たのはシーラ。バレてないけど一応マーダ教系になるわけだし、他のみんなよりは声をかけやすいだろう。内容を考えると、特に。
「すまない。客人に失礼な真似をさせる」
「客分だからこそ、失礼な真似もできる。安心めされよ」
さらっとかっこいい台詞を言いおいて、シーラは教会の正面に向き直った。まあ、この街に住んでる衛兵さんたちとは違って俺たちは、何かあったらさっさと逃げ出せばいいだけの話だもんな。
周りの人たちが何だ何だ、と不思議そうに視線を集めたところでシーラが、凛と声を張る。
「自分は僧侶ファルンの同行者である剣士、シーラ。僧侶、スカラ殿はおいでか」
ほんの少し間があって、玄関扉が開く。ひょこっと顔を出したのは黒髪長髪眼鏡巨乳長身ツンツンな僧侶、スカラさん……の偽者。惜しいなあ、本物だったらがっつり吸ってたのになあと少しずれたことを考えるあたり、すっかり邪神化してきてるな、俺。
「スカラはここに。何か御用かしら」
まあ、バレてねえと思ってるんだろうな。偽スカラは呆れた顔をして、シーラをまっすぐ見つめている。
で、シーラの答えだけど。ぶっちゃけ、ストレートなものだった。
「さきほど、墓地にて僧侶の遺体を発見した。こちらの衛兵隊隊長殿に確認していただいたところ、スカラという名の僧侶であることが分かった」
「え」
あ、さすがに顔色変わった。あと、周りで見てる人たちのざわめきが大きくなってる。ざわざわひそひそ、まあ分からんでもない。
「これが何を意味するか分かるか?」
「こちらに派遣された僧侶のスカラ様は、既に亡くなっておられます。つまり、今そこにおられるスカラ様は偽者、ということになりますわね」
そこにシーラが畳み掛け、ついでにファルンがぶっちゃけた。彼女もマール教の僧侶だから、他の誰が言うよりも信頼度は高くなる。
で、偽スカラが顔をひきつらせながらそれを否定する……のはまあ読めてる。
「あら、いやですわ。おかしなことをおっしゃるのね、皆さん」
「カーライル殿、済まない」
「お任せを」
隊長さんに頭を下げられて、カーライルが杖を構えた。能力発動のキーワードはファルンやブランナから教わってたんだけど、これがなあ。
『我らが神、サブラナ・マールの御名において、この者に降りかかりし魔術を消し去れ』
「なっ!?」
いやだろうなー、カーライル。あれ、使うたびにサブラナ・マールの名前を自分の神として唱えなきゃいけないんだから。
もっとも、キーワードを読み上げるだけなんで別にマール教信者じゃなくても発動できる、ってのはありがたい。
そうして発動した杖の能力は、偽スカラの全身を淡い光で包み込む。びりびり、ばしばしと……ええと何だ、魚の鱗を鱗取りでごりごり取ってるみたいな音がする。
「いぎゃああああああああ! なに、なんなのおっ!」
「何か鱗剥いでるみたいな音っすね」
「変装という名の鱗、だろ」
ガゼルさんと隊長さんが、俺の考え読み取ったような会話を交わしながら武器の棍棒を構える。他の衛兵さんたちはわっと散らばって、見物してた住民さんや旅行者さんなんかを教会前から引き離し始めた。
シーラは既に剣を抜き、ファルンも杖を構えている。カーライルは……あ、衛兵さんの一人がこっちまで引きずってきてくれた。自力で歩けなくなってたか、この残念イケメン。
「……」
「思いっきり消耗したな……カーライルお兄ちゃん、だいじょぶ?」
「……いろいろな意味で疲れますね、これ……」
地面にうつ伏せになったまま、カーライルは息も絶え絶えにそんな台詞をのたもうた。あんまり使わないほうがいいかな、この杖。
まあ、そういうものに限って今後使用機会増えたりするんだけど。何しろ、呪いとかも解除できるみたいだし。
「はあ、はあ、はあ……」
ああ、鱗取り終わったみたいだな。偽スカラのいる方に目を向けて………………あ。
「ご覧の通り。この者は僧侶スカラ様を殺害し、自身がなりすましていた罪人! よってエンデバル衛兵隊はこれを捕縛する!」
「できるものなら、やってみやがれ!」
そこに立ってたのは、ボサボサ頭に無精髭の痩せこけたおっさんだった。
ちくしょう、おっぱい返しやがれこの罪人!




