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052.すぐ目の前にひそんでた

 慌ててガゼルさんが穴を覗き込み、そこから見えた顔に引きつる。墓地全体に漂っているんだけど急に強くなった、むわっとしたなんとも言えない臭いのせいかもしれない。


「うわ、間違いねっす。スカラ様ですよ」

「スカラさまって、きょうかいのそうりょさま、よね?」

「さっき会ったばかりですもの、間違いございませんわよ」


 そういやあの人、スカラとか言ってたっけか。会話はファルンに任せて、全力で聞き流してたからなあ。

 と、俺たちの背後を守るようにシーラが翼を広げ、カーライルが杖を構えた。もし、何かいたら危ないからだろう。

 そして、ガゼルさんは引きつったままの顔をしながらそれでも、自身の本来の仕事をするらしく言葉を紡いだ。


「俺、屯所行って隊長引っ張って来るっす。カーライルさんだっけ、ここ動かないでくださいっすね」

「わかりました。急いで行ってください、他の者には知られないように」

「もちろんっす」


 ドタバタと走り去っていくガゼルさんの背中を見送るのも何なので、俺は土の中の僧侶に視線を戻した。


「ミンミカ。完全に掘り起こすと現場検証しにくいだろうから、顔だけでも綺麗に出してやってくれ。臭いか?」

「わ、わかったですう。だいじょぶです、ミンミカのすんでたとこ、もっとくさかったです」


 俺の指示で、ミンミカの手が土に伸びた。てか、ここより臭いがきつかったってミンミカ、どんなところに住んでたんだろう。

 程なく、僧侶の肩から上ははっきり見えるようになった。首筋に紐の跡があるから、分かりやすく絞められたな。


「えー、つまり、先程わたくしたちがお会いしたスカラ様は……」

「偽者。状況的に、マーダ教の信者が化けているという可能性が一番高いと思われる」


 ファルンの言葉に、シーラが答える。

 墓守の家はマーダ教の信者がアジトとして潜んでて、その元々の主である墓守が殺されて穴に埋められてた。

 僧侶スカラは、同じ穴の更に下に埋められていたことになる。多分、こちらの方が殺されたのは先だろう。ただ、そんなに時間が経ってないのかなんとか見られる顔のまま、だけど。

 さて、問題はもう一つある。


「で、他人になりすますことってできるのか?」

「よほど高位の魔術師でかつ、自分自身に術をかけるということであれば、可能というお話ですわ。ですが、こういう事態が起きることを想定して、変装魔術の使用は禁じられているはずですの」

「……今のマーダ教、それ守るとは思えねえな」


 ファルン、本当によく知ってるなあ。なるほど、自分専用の魔術かつ今では禁じ手、な。

 にしてもああ、やっぱり魔術師とかいたのか。今までそういう話出たことなかったから、田舎にはいないとかそういう感じなのかね。


「つか、今のファルンの言い方だと使える魔術師、結構限定されてね?」

「神都でも片手で数えるほど、おられるかどうかというお話ですわね。もともと、あまり表に出てこられる方々ではないので」

「よほどの大戦にならないと、魔術師などは出してきませんよ。今のマール教ならば、人数と道具でなんとかなりますから」


 ファルンとカーライルの証言によれば、要はそこらへんにゴロゴロしてるような連中じゃないわけか。……魔術師、って言い方自体が魔術を使える人のトップレベル、なのかもな。

 あ、そうだ。変装が魔術ってことは、もしかして。


「変装する術があるんなら、見破る術もあるんじゃないのか?」

「ございます。カーライル殿がお持ちのマール教の杖であれば、可能かと」

「え、これ?」

「正確に申し上げれば、対象者に掛けられた術を解除することができますわね。解呪などもできますので、ブランナ様がぜひお持ちくださいと差し出してくださったんですよ」

「ああ、そっちか。なるほど」


 術の解除、なあ。あれだ、魔法の鍵とか呪いとか足止めとか、万が一何かあったときのための切り札というか便利アイテムというか、そういうものだったのか。基本、カーライルは杖を敵殴るために使うからさ。


「なんで、つかわなかったの?」

「変装魔術使ってるなんて、普通思いませんよ」

「禁じ手だしなあ」


 ミンミカの疑問、分かるけど無理があるよ。まさか、相手が僧侶に化けた偽者だなんて思わなかったわけだし。

 思ってても、マール教のアイテムって発動させるのに呪文というか言わないといけないから、あまり人前で使うのはなあ。


「その術は自分も知っているが、術をかけた術者に対応できる者でないと術の解除は難しくなる、のではなかったか?」


 と、シーラがまた別の疑問をぶつけてきた。……言われてみれば、なるほど、である。

 元々の術を掛けた方がめっちゃレベル高いのに、こっちはレベル一でも使えますよーなんてゲームでもあんまりないわな。

 ただ、そこら辺はカーライルやファルンがきっちり分かっててくれたようだ。


「それは、魔術師が自身の術で対応する場合ではありませんでしたか? シーラ様」

「そうですわね。カーライル殿の杖であれば、大概の術者には対応できるかと」


 おう、やっぱりマール教万歳ってとこか。


「ただし、解除の難易度に応じて使用者の体力をひどく消耗するそうですが」

「それで私、ですか」


 あ、オチが付いた。

 この面子だと戦闘能力はトップがシーラ、ついでミンミカ。ファルンは僧侶なので、いろいろと便利である。

 俺は……うんまあ邪神だけど、ロリっ子だし。杖使ったときに体力が外見通りだったら即ばったり倒れるだろうし、倒れなかったらそれはそれで怪しまれること間違いなし。

 そうなると、カーライルが持つしかないよね、うん。


「俺、カーライルは吸うつもりねえしな」

「でーすーよーねー」


 おい、がっくりするなよカーライル。お前が体力つけてくれれば助かるんだよ、頼むぜ。

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