049.許可をとったら案内人
衛兵隊の屯所は、教会から少し離れたところにある。こちらは周囲の建物と同じタイプで、看板がかかってなきゃ民家と間違ってもおかしくないな。
「墓地と墓守の家の見学、ですな」
「はい。修行中の身ですので、様々な場所を拝見して我が身の糧としたいのです」
またまたファルンの出番、ということで受付をしてくれてる衛兵のおっさんに申し込んでもらう。がっしりした髭面のおっさんは、身をかがめてこちらの話を聞きながら書類にさらさらと書き込んでいる。多分許可書とかそこら辺だろう。
「そりゃあよろしいこった。一応検証も終わってますし、マール教の僧侶さんなら構いませんぜ」
「ありがとうございます」
にこ、とファルンが微笑んでみせると、おっさんは分かりやすく機嫌が良くなった。まあ可愛い僧侶さんだしな。俺の下僕だけど。
と、ペンを置いたところでおっさんが奥に向かって声をかけた。
「おーいガゼル、墓と墓守ん家見たいんだとよ。お前、案内してやれ」
「あいよー」
おお、案内役までつけてくれるのか。見張りなのか、それとも護衛なのかは分からないけれど。
でもまあ、初めて来た街だし、案内がいてくれるのはありがたいよな。
「ガゼルっす。よろしく」
おっさんが呼んでくれた案内のガゼルさんは、カーライルより少し若い感じの兄ちゃんだった。俺から見ると二十代前半、ってところかな。赤毛の短髪で、ちょっとチャラい系。
「ファルンですわ。こちらはわたくしの同行者たちですの、よろしくお願いしますわね」
「うい。じゃ、さっさと行きますか」
ファルンに合わせて、俺たちも軽く目礼する。ガゼルさんはくるりと一同を見渡して、それからにいと笑いながら腰にぶら下げた棍棒の柄を軽く手で叩いた。え、携行武器、それ? まあ、銃とかなさげな世界だけどさ。
「墓守さん家はともかく、墓地は夜にゃあんまり見たくねえ場所なんで。火の玉がふよふよ飛んでたり、死んだ人間がうろついてるなんて噂もあるんすよ」
「……出るんですか」
出た、幽霊話。そういうの、どこの世界でも同じなのかね?
シーラみたいに死んで生まれ変わってるやつもいるし、そういうのは至極当たり前に存在してるのかもしれないな。
俺もある意味、生まれ変わりと言ってもおかしくないわけで。
あと、カーライル。お前、固まった顔でぼそっと呟いたけど、もしかしてそれ系苦手か?
「墓守の方も、そういったものを拝見なさっていたのでしょうか」
「らしいっす。なんで、墓地に見かけねえ人がいてもああまたか、で済んだんじゃねえかって話で」
一方ファルンはそういうのは平気らしく、さらっと流している。しかし、それに対するガゼルさんの答えはどうかと思うぞ、墓守さん。
つまり、怪しい人物が夜中の墓場にいても幽霊と思い込んでしまってた、そういうことだろ。
「それで、はかもりさんは、ゆうれいさんだとおもって」
「マーダ教の信者を見過ごすなり、幽霊のつもりで話しかけるなりして」
マーダ教の信者に、殺された。ミンミカとシーラはそこまでは言葉にしなかったけれど、つまりはそういうことだ。
しかし、幽霊に間違われるなんてどういうかっこしてたんだろうな、そいつら。
「まあ、そういうことありますんで、念のため俺が護衛としてついていくっす。と」
それでガゼルさんがついてきてくれる、とそういうことなわけか。ファルンみたいな天然系とかが、うっかり幽霊と不審者を見間違えないために……って、普通間違えねえよ!
「お嬢ちゃんは、そういうの大丈夫なんか?」
「え」
お嬢ちゃん。そう呼ばれたのが俺だってことに、一瞬気づかなかった。
というかお前ら、全員視線集中させんなよ。あとガゼルさん、俺の今の身長に目線の高さ合わせるためにしゃがんでくれてるし。
「昼間でも怖いんなら、ここで待っててもいいんだぜ?」
「あ」
……ああ、そうか。
この人は、俺のことを外見通りのロリっ子としか思ってないから、墓地なんぞに行っても大丈夫なのかと気遣ってくれてるわけだ。
ぶっちゃけ、殺人現場見に行くってことだしな。
「えっと、お墓にはあまり行ったことがないので、見てみたいです」
「そっか。そりゃ偉いな」
とはいえこっちに来てからそこら辺の感覚鈍ってるのか、行かないという選択肢はあんまりないんだよな。そのことをうまくぼかして伝えると、ガゼルさんは白い歯をむき出しにして笑って、それから頭をなでてくれた。あ、なんか犬歯が牙っぽい。
「やっぱ昼の方がいいっすね。あんまし、ちっちゃい子怖がらせたくねえっすし」
「だいじょぶだと、おもうです。コータちゃま、なでなで、すっごくうれしいですね」
「え?」
なんでミンミカ、そんな事言うんだよ……うわあ、無意識に俺の尻尾がものすごく振られてる。頼む止まれなんで無意識に動くんだよしっぽー!




