045.部屋に入って一段落
ファルンの脅しが功を奏したのか、俺たちは最上階のワンフロアスイートとかいう部屋に案内された。もっとも、そんなに大きな建物じゃないけど……最上階ワンフロア独占、というのはこちらとしてもありがたいので文句は言わない。
「こ、こちらのお部屋、に、なります」
オーナーのおっさんが扉を開けてくれると、広めの窓から外が見える落ち着いた感じの客室だった。部屋もいくつかあるみたいだから、カーライルが居場所がなくて困った、なんてことにもならないな。
「ありがとうございます。わざわざ、オーナー様にご案内いただきまして」
「い、いえ。どうぞ、ごゆっくり」
さっきのまま、つまり目だけ笑ってない笑顔のファルンに丁寧に礼を言われて、オーナーのおっさんは冷や汗をかきながら頭だけ下げて慌てて退出した。逃げ出した、と言ったほうが正しいか。
「……今まで、こういった客はいなかったのでしょうか?」
「宿側の言い分に対して強く出たの、ファルン殿が初めてなのでは?」
おっさんの背中を見送りながら、ファルンが不思議そうに首を傾げた。ひとまず、階段を降りていく音を確認してから俺たちは室内に入って扉を閉める。
そういえば、今までにも普通に獣人や鳥人と接してる人々が来ててもおかしくはないもんなあ。それに対してのこの宿の扱い方、今まで誰も文句を言わなかったのか。
角と尻尾を持つ身となった今としては、何というかムカつくな。
「ミンミカとコータちゃま、わるいこと、してないのに」
「自分もです」
外見上は俺と立ち位置が変わらないことになるミンミカとシーラも、やっぱりムカつくらしい。ミンミカは頬膨らませてるせいか、めちゃくちゃウサギ顔になってる。シーラはあまり表情変わらないけど、目つきが悪くなってるぞー。
「まあ、そういう見方があるってのは仕方ねえな。ただ、ファルン」
「はい」
とはいえ、言ってても仕方がないので俺がまとめることにする。何、そういうやつは後々見てればいいさ。
それと、ちゃんとお礼は言わないとな。
「はっきり言い返してくれて、ありがとうな。嬉しかったよ」
「は、はいっ!」
ファルンは、俺たちのことをちゃんとあのおっさんに突っ込んでくれたから。
すると、カーライルがなんかやる気を出したようにキリッと顔を引き締めた。そうしてるとほんと、普通にイケメンなんだけどなあ。
「このメンバーの中で人間なのはファルン殿と私だけですから、私もしっかりしないといけませんね」
「ファルンは僧侶だから今回は良かったけど、女なめてかかるような相手だとな。頼むぞ、カーライル」
「お任せください」
多分、この先そういう連中出てくるからな。人間じゃないから甘く見て、女だから甘く見て。
カーライル、ほんとしっかりしてくれよ。普段はファルンやシーラのほうがしっかりしてるから、お前が必要な時だけでも。
落ち着いたところで、室内の確認。
ワンフロアに寝室二つとリビング、他にトイレがあった。とはいえ、おまるじゃないだけでポータブルトイレに近いやつだ。つまり、下に溜まるのは一緒。
「風呂はないのな」
「街の中に銭湯があるはずですから、そちらに参りましょう。わたくしどもだけであれば、教会でも良いのですが」
こっちでも銭湯、というのか。それとも、俺がそう認識してるだけか。まあ、そういうのがある、というのは分かったからいいことにしよう。
教会にも風呂があるのはわかってるけどさ、それは。
「それ、カーライルが入れないだろ」
「そうですねえ。やはり、銭湯で湯を浴びるのが一番ですわね」
ですよねー。女がえっちするための前準備用だもんね、教会の風呂。野郎はマール教のトップしか入れないだろ、あそこ。
「……ところで銭湯って、人間と獣人や鳥人って別々だったりする?」
「ところにもよりますね。毛や羽、鱗が取れることも多いですから、湯船が別ということもあります」
「そりゃそうだ」
すまん、カーライル。確かにそれは、ちょっとなあ。人間だけの風呂だって、髪の毛浮いてたりしたら嫌だもんな。
てか、鱗か。
そういや、俺の配下の四天王に海王ってのがいたっけ。そういうやつもいるんだな、うん。




