043.街に到着チェックは甘し
街から少し離れたところで、俺たちは牛車を降りた。この後アンディスには悪役になってもらうので、その彼女の関係者と思われたら面倒だからな。
「では、あたしはここらへんで。ご主人、皆様方、旅のご無事を祈っているよ」
「ありがとう。ほどほどにな」
「よく言うよ」
俺が礼を述べると、アンディスはクスッと肩を揺らして牛を歩かせ始める。牛車の姿がエンデバルの街の中に消えていくのを見送ってから、俺たちも歩き始めた。
で、ふと気にかかったことについて尋ねてみる。相手は……こういうときは、やっぱファルンかな。
「ああいう街だとさ、出入りのときはチェックとかあるのか?」
「はい、ございます」
「だよねー」
特に、神様同士の戦いなんてでかい戦争があった後だもんな。そういう身元チェックとかはしっかりやってるはずだ。
「ですが、コータ様や皆様はわたくしの同行者ですから大丈夫ですわ。ミンミカさんも、スラントで手続きをしましたから」
「ほえ?」
「……マール教さまさま、ですね」
カーライルが、俺の考えたことをしっかり言葉にしてくれた。マール教が絡んだら、ある意味何でもありかい。チェックゆるすぎるだろ、そんなので大丈夫なのか?
「ファルンのおかげで自分や、何よりもコータ様が自由に動けるのはありがたいと思いますが」
「ま、確かにな。シーラの言うとおりだ」
もっとも、本当にシーラが言ったとおりなんだけど。チェックが厳しかったら俺はともかく、カーライルやミンミカみたいなマーダ教信者は今頃えらいことになってるわけで。
つかサブラナ・マールやマール教上層部、俺の能力知らないわけじゃないだろうに。そこら辺のチェックもしねえのかよ。甘いなー。
ま、気をつけるしかないか。
エンデバルの街の外壁は、ほんとに見上げると古いどこぞの球場みたいな感じだった。ただ、石積みでがっつり作られていて、所々に穴とか傷とかいろいろついている。その上に蔦が張ってるから、大昔に俺の配下とかが暴れた跡なのかね、あれ。
で、古い城みたいに大きな門がある。木製のごっつい扉がついてるんだけど、あんまり動かした形跡ないな。普段は開きっぱなしで、俺とか四天王とかみたいなトンデモ敵に備えて閉めるとかか。
普通に人々や牛車や荷物積んだ馬が行き交ってるから、出入り自体は余り厳しくないのかね。それとも、一度認証されればOKとか?
俺たちは中に入る人々の列に並んで、順番を待つ。
ファルンが荷物の中から紙を一枚取り出して、軽く広げた。これが、修行に出るマール教信者とその同行者について記されたある意味通行手形、みたいなものらしい。ミンミカについても、さっき言ってたけどスラントで手続きをして書き加えたとかなんとか。
偽造されてもおかしくなさそうなもんなんだけど、実際のところは分からない。俺がうっかり触って変な反応出たりしたら、それはものすごく困るからな。
「僧侶ファルンと申します。同行者一覧はこちらに」
「拝見いたします」
その門を入ってすぐのところに、小さな検問がある。皮の鎧と棍棒……何そのコンシューマRPGスタート少し後の装備、という感じの衛兵さんが数人いて、ファルン相手にかしこまっていた。やっぱりマール教さまさまか。
通行手形を確認した衛兵さん……鎧の模様とかがちょっと豪華だから、隊長さんかな。その人が丁寧に手形を返してくれて、びしっと敬礼をしてくれた。こちらでも、敬礼は俺が知っている大体同じカタチらしい。
「カーライル殿、コータ殿、シーラ殿、ミンミカ殿ですね。確認いたしました、どうぞ」
「ありがとうございます。我らが神のご加護を」
「我らが神のご加護を」
ほんとにそうだった。一応、俺たちもちゃんと頭を下げて通ろう。「ありがとうございましたっ」と全力でロリっ子ぶってみたら、衛兵さんたちは「良い子ですね」と褒めてくれた。
…………いやいやいや。いいか、俺は自分が褒められて喜んでるんじゃないんだぞ。衛兵さんたちが、外見ロリっ子にすっかり騙されてしまってるのを喜んでるんだからな。
「コータちゃま、いっしょいく、ですよー」
「はーい」
……ただ、芝居に関してはミンミカのペースに乗せられてるのか、これは。まあ、中身が社畜男だったり実は邪神だってバレルよりはもう、よっぽど、マシだけどさ!




