430.わるいけどうまくやる
ぴぎゃあ、という何とも情けない悲鳴は、本当に世界中に響き渡ったようだ。
その声がきっかけとなって、世界中のマール教が一斉におとなしくなった……らしい。マジか。
「んまあ、マール教だからって排除する気はねえけどさ。マーダ教と戦したいなら、遠慮なく相手してやれ」
「もちろんですよ」
ひとまずアルネイドのマール教軍の幹部どもを捕虜にして、その功労者であるスティとそんなことを話しながら俺たちは北方城に戻った。
下っ端兵士たちは何だかんだで怪我してるやつも多いので、あっちの僧侶たちと一緒に面倒見てからそれぞれの故郷に返してやることにしている。何か皆、ベッコリへこんでたなあ。あのぴぎゃあが響いたのかね、やっぱり。
「サンディタウンでマール教の信者を保護してやれ。あとは神都サブラナとかもな」
マール教をいきなり禁止したりしたら、この世界に数多くいる信者たちが黙っちゃいない。俺としては俺の信者がいじめられなければそれでいいので、マール教側の保護区みたいなものを作ってやることにした。サンディタウンならグレコロンが領主だし、何とかなるだろ。
「逆にアルネイドやバッティロスはマーダ教で。……ある程度、マール教とマーダ教で線引きしたほうが良さげだな」
「そうですね。神都サブラナのマール教上層部も、さすがに話は聞いてくださるようですし」
人の姿に戻ったカーライルが、俺の台詞に頷いてくれた。こいつが俺の名代として、あっちと話をしてくれている。……マール教の前に姿を表すときは相変わらず龍の姿かつガイザス装備着用なので、結構威圧はできるらしい。あまり怖がらせるなよ?
「あ、サブのことは内緒な。交渉材料としても使うんじゃねえぞ」
「分かっておりますよ。ただの赤子が、交渉材料になるわけないじゃありませんか」
「それもそうか」
一応注意はしておくけれど、カーライルも分かっているのかさらっと返してくれる。これがマール教側だったりするとどうなのか分からないけれど、さすがに人でなしみたいなことはしたくないからな。
「うぁ、あー」
「おお、よしよし」
ルッタはすっかり、赤ん坊の世話が板についてきた。サブラナ・マールだからサブ、と呼ばれるようになったその赤ん坊は、さてこの先成長するんだかどうだか。一応、ショタっ子くらいにまで成長してくれるとルッタが楽になるんだけどな、とは思ってるんだが、さて。
「コータちゃまー! ネレイデシアさまから、おてがみがとどいたですよー!」
「おう、ありがとうなミンミカ」
ウサギ娘とその兄貴は、基本お届け物をしたり物を運んだり……うんまあ、城の中で運び屋をやってもらってる。あまりややこしい仕事はできないんだが、お届け物はきちんと運んでくれるしな。
で、レイダから手紙か。どれどれ。
「んー。海の方は、ひとまず落ち着いたっぽいな」
「もともと、魚人や水棲獣人はマーダ教が多いですからね」
「それもあるんだけど、船とか港とかな。あいつらが協力して、海運を安定させてる」
覗き込んでくるカーライルに、レイダの手紙を渡す。レイダの配下がついてれば、例えば船が嵐に見舞われそうになったときにそこを避けたりしやすくなるらしい。どういう原理かは知ったこっちゃねえけど、海についてはあいつらはプロだからな、何とかなるんだろ。
「何だかんだで船は重要だしな。そこを潰さないようにうまく運用していけば、船乗りたちもそのうちおとなしくなるんじゃないかな」
「まあ、仕事がなくなるよりはマシですしね」
……あー。神様てめんどくさい。
サブ、お前よく世界のほとんど自分の配下にできたな。よっぽどいい幹部共に丸投げできたのかね。
俺もそうするか、うん。




