425.ゆうしゃはつよいらしい
「四天王でもない小娘が、我に敵うと思うなあ!」
上から、サブラナ・マールの声が降ってくる。シーラと一緒に上昇すると、胸元に剣ぶっ刺したままですごく顔をしかめていた。痛いのは痛いんだろうな、と何となく思う。なら抜けよ、それ。
とは言えあの程度の攻撃じゃ殺せない、ってのは確定だしなあ。参ったな、と思いつつシーラと一緒に言葉を返す。
「それが本当か、試してみるがいい! サブラナ・マール!」
「あと、その言い方だと俺もそうなんだが、それはいいのか?」
俺の台詞に一瞬、ぴたりと相手の動きが止まった。俺は四天王じゃない小娘だから、一応間違っちゃいないんだよな。
「だ、黙れ黙れだまれえ!」
「お前がな!」
焦って手からビーム乱射しまくるんだけど、こういうときって変な方向に撃つから当たらないんだよなあ。その隙を見て、するするとシーラが剣を構えつつ接近する。俺も、衝撃波よーい。
「はああああっ!」
「ふんっ!」
「がああああっ!」
シーラの剣を、サブラナ・マールが腕で払いのける。がきんという音がしたから、腕が金属っぽくなってるのかもしれない。で、そこの隙をついて俺が胸ぐらめがけて衝撃波をぶっ放す。何とか直撃はしたけれど、さて。
「効くかあ!」
至近距離の手からビームを、シーラが下に向かって羽ばたくことでギリギリ避ける。すぐに上昇し、下から斬りつけるシーラに便乗して通り抜けた上からもう一度衝撃波。今度は脳天にぶつかって、「ぎゃっ」と情けない悲鳴が上がった。
「き、貴様らあ!」
涙目でこっち見上げてくるなよ、おっさん。即座に手からビームを連射してくるけど、シーラは結構小回りが効くみたいでひょいひょいと避けている。俺を抱きながらだから、余計にすごいな。
「チョロチョロ避けるな!」
「貴様が言うか!」
「ほんと、お前が言うなあああああああっ!」
文句つけてくるから、反論がてら反撃……何とか肩をかすったようだ。
しかし、シーラだと避けるのは楽だろうけど距離があると反撃できるのが俺だけだからこれはこれで困るかな、うん。カーライルは身体が大きいから避けるの大変だけど、あいつもビーム撃てるし。
と、そのビームが下からサブラナ・マールを狙って放たれて来た。俺たちには当たらないよう、きっちり角度調整されてるっぽい。
「ひっ!?」
「お?」
「コータ様!」
「遅くなりました!」
下から龍王ともう一人、鳥人女性が翼を広げて上がってくる。俺の配下である、四天王の二人だ。
「ルッタ、カーライル!」
「き、貴様ら……フォミノアと戦っていたはず!」
うん、それは俺も思った。一応勇者だし、それなりに苦戦するんじゃないかなあ、とは。
その答えは、ルッタが教えてくれた。
「一対一では、さすがに厳しかったな。伊達に勇者は名乗っていなかったようだ」
「な……」
「我らが二人がかりでも、なかなか苦労しましたよ?」
カーライルも、後に続く。そう言えば口元、何か血っぽいものがついてるんだけど……それはえーと、つまりそういうことか。
噛み砕いた、のかもしれないな。胴体とかじゃなくて翼かもしれないけど。
しかし、四天王でも一人では大変だったなんて、勇者ってどんだけ戦闘力あるんだ?
……だから、過去の戦いではこっちがすごく不利だったわけか。その勇者を、マール教は複数動員してたんだからな。今回は時間の都合で一人しか使えなかった、それが俺たちとしては助かったってことか。
「さあ、決着を付けましょうか。サブラナ・マール」
がおう、と吠えるようにカーライルが、敵の神にまっすぐ向いて、そう言った。




