041.ご飯を配っていろいろと
「皆さん、待っていてくださいね。きっと助けが来ますから」
「ごはん、たべてください、です」
「ここ山の中だから、下手に外に出ないほうがいいですよー」
主にファルンとミンミカが、それぞれの部屋に食料を配る。俺は同行しながら、彼女たちに声をかけていく。
アンディスと部下たちが食事に関してはめんどくさがり……というか、料理できるやつがいなかったのか、ジャーキーとか硬めのパンとかの保存食が多い。水は井戸があって水質も問題なさそうなので、革袋の水筒に汲んでは一部屋に一つくらい渡していく。
「ああ、ありがとうございます……」
「我らが神に、感謝を……」
……この場合の神様は俺の敵なんだけど、聞かなかったことにしておこう。
しかし、確かに僧侶さん多いな。十何人いて、半分僧侶だもん。残り半分は普通の人とか、俺みたいな獣人とか。近くの山に来てたり旅の途中だったりしたところを、かっさらわれてきたんだろうな。
「これでおわりですー」
「ご苦労様でした、ミンミカさん。コータちゃんも、お疲れ様です」
「ファルンもー」
一応、他人様もいるようなところなので俺は幼女のふり。何か、だんだん違和感なくなってきてるんじゃないかと怖くなっている。
でも、おっぱいは大好きだからな。うん。
「おんなのひと、いっぱいいた」
「そうですわね。アンディスさんたち、普通のお仕事をしておられれば普通に暮らせたはずですのに」
「そういやそうだなあ。……元々人買いだったから、それしかできなかったのかもしれないな」
部屋を離れて、余った食料を戻すために倉庫に向かいながらそんな話をする。
普通のお仕事、か。この世界でも、普通の農家や漁師やお役所や、その他いろんな仕事はあるはずだよな。
アンディスも、そういった仕事に目を向けられていれば俺の下僕になることもなかったんだろうか。
いやまあ、美味しかったからいいけどさ。それに、なっちまったもんは仕方ないし。
「アンディスの配下の収容、終わりました」
「お疲れ様です」
何か余計なことを考えてるところに、シーラとカーライルがやってきた。もちろん、アンディスも一緒に。
アンディスは肩に担いでいた重そうな布袋を、床に置いた。じゃらじゃら、と金属が擦れる音が大量にするからこれ、貨幣か。
「こちらが、今までの売上。ご主人に全て献上するよ」
「ありがとう。どのくらいあるんだ?」
「五年ほどは、遊んで暮らせるかね。もっとも、マール教への献金で半分以上持ってかれるかもしれないけど」
アンディスの言葉……逆に言えば、マール教に金さえ出せばこういう稼業でも捕まらずに暮らせる、ということらしい。まあ、教会も金いるもんな。
そして、もうひとつ彼女は教えてくれた。
「明日の引き取りは夕方、エンデバルの外れで待ち合わせさ。だから、あたしがそこに官憲を連れていけば一網打尽にできるよ。ご主人」
「よし、ならそのとおりにしてくれ。売る方も買う方もまとめて捕まえた方が、後々楽だろ」
「お任せあれ」
アンディスが自分のやらかしたことを公衆の面前でぶちまけて、彼女を捕まえた連中が次の取引場所を知ればそこを強襲するはずだ。自分たちの身内がそういうところから人を買っているとしても、さすがに放っておけるわけはない。
それに。
「仲介から顧客が割れると思いますが、ちゃんと調査しますかね」
「おそらく中小勢力か、メイン勢力の敵対者を適当に生贄として挙げるのではないか? 敵対勢力を潰すにはいい話だし」
「エグいですねえ」
「エグいな」
カーライルの疑問に対するシーラの答えが、この場合権力者が取る最良の手段だろう。自分たちから目をそらし、敵対する相手を叩き潰せるわけだからな。
まあ、そういうのが少しでも減る分には問題ないだろうな。お姉ちゃんたちも少しは被害が減るだろうし、俺の吸う分が増える、かもしれないから。




