418.番外9:戦場
空から降ってきた光の力で、多くの兵士たちが傷ついた。わたくしのいる最後尾には、そんな兵士たちが次々に運び込まれている。
「治療を急いで!」
「杖ならいくらでもあります、どんどん使いなさい!」
サブラナ・マール様のお力を頂いた杖を持った僧侶たちが、傷ついた兵士たちをそのお力で癒やす。わたくし、ファルンもまた、僧侶の一人としてその中に加わっていた。
わたくしの後見人を務めてくれている先輩僧侶が、こちらを心配そうに伺っておられる。
「ファルンさん、大丈夫なの?」
「ええ」
「そう。でも、無理をしないでね?」
「大丈夫です。そもそも、無理をできるような身体ではなさそうなので」
「戦場に出てきている時点でそこそこ無理だけどね」
そうはおっしゃられるが、マール教とマーダ教が直接ぶつかる大きな戦である。たとえナーリア村からここまでに至る記憶がすっぽり抜けてしまっていたとしても、こうやって兵士たちの傷を癒やす事ができるのであれば出てこない道理はない。
があん、と空の上で激しい音がする。思わずけが人も、僧侶たちもそちらに視線を向けた。もちろん、わたくしも。
数名の鳥人たちと、一体の怪物がぶつかっている。鳥人の一人はかなり大きな肉体をしておられて、どうやら背にどなたかを乗せておられるようだ。
「……あれは」
「教主様と護衛の方々ですわね。ですが、相手は……」
「龍……ですわね」
先輩の言葉に、伝説で聞いた名を思わず続ける。龍人など、わたくしは見たことがないもの。だから、想像でしか答えられない。
そのわたくしのことばに、先輩は呆然と、さらに伝説でしか聞きようがない名を続けられた。
「よもや、龍王クァルード?」
「まさか……復活したらしい、とは伺っておりましたが」
邪神アルニムア・マーダの側に仕えし四天王、その一人、龍王クァルード。伝説でも倒された後の動向は全く不明であったのだけれど、あの姿を見れば復活したのだと確信せざるを得ない。
それでも、我らが教主様に敵うとは思っていないのだけれど。……ただ。
「どなたか、乗っておられますわね」
「あらそう? よく見えるわねえ」
「一瞬ですが、ちらりと。銀色の髪だけですけれど」
本当に、一瞬だけ。あの龍の背中にキラリと光った、銀色の髪のようなものがわたくしには見えたのだ。気のせいかもしれないけれど、わたくしはあれが本当に見えたものだと自信を持って言える。
「ということは、もしかして……」
ただ、銀の髪といったところで先輩は眉をひそめられた。ほんの僅か考え事をなさるような顔になり、そうしてぼそりと呟かれる。
「伝説の邪神、アルニムア・マーダ?」
「……まさか」
龍王クァルードが仕えし邪神、その者が既にこの世界に復活しているというのでしょうか?
そんな事を考えていると先輩は、「まあ、本物ではないでしょうけれどね」と言葉を続けられた。
「本物でも、我らが教主様に敵うわけがないわ。お一人だけだけど、勇者様も参戦されておられるようだし」
「あら、そうなのですか?」
「ええ。教主様に付き添っておられる鳥人の方の一人が、勇者なのだそうよ」
勇者様が参戦なされているということは、わたくしは初めて伺った。ともあれそういうことであれば、我らマール教の勝利は揺るぎないものであろう。
……ええ、きっと。




