406.脱出したら真上にて
「ネレイデシア! ルシーラット! 退却だ!」
外に飛び出た瞬間、カーライルが吠えた。しっかり掴まりながらちらりと下を見ると、即座にシーラが飛び立つのが見える。そうして、水路の中から文字通り飛び出してきた大タコ……もとい、レイダも。
「ネレイデシア様、こちらに!」
「任せる!」
シーラが伸ばした手に、レイダのタコ足が絡まる。そのままシーラは思い切り羽ばたいて、カーライルと同じくらいの高度……十メートルくらいかな、まで上がってきた。
「退却かい?」
「露骨に待ち伏せされていた。それと、奴がいてな」
「サブラナ・マールか」
四天王の二人が、短い言葉で会話を交わす。まあ、あれで通じるんだからさすがは付き合いの長い仲間同士、前世含むってやつかな。
そんな事を考えていると、ミンミカが「わあ!」と叫びながら何かをはたき落とした。……えー、矢? もしかして。
「コータ様、アムレク、ミンミカ」
「ん?」
「はい?」
「なんですか?」
「弓部隊です。上昇しますのでしっかりお掴まりください」
「分かった」
やっぱりそうか、と思いつつウサギ兄妹共々カーライルにしがみつく。と、ぐんと重力が掛かってカーライルの速度が上がった。あ、これ上に行ってるな、うん。つまり、聖教会にいる弓部隊の射程から外れるために上昇してるわけだ。
俺たちはいいけどシーラとレイダは……とチラ見すると、あっちはもっとやることをやっていた。
「はああああああっ!」
俺たちより少し下を追ってきながら、レイダが口から何やら吐いている。ビームじゃなくて、何か黒っぽいもやみたいなのが下に広がって、眼下の連中視界がなくなってるんじゃないだろうか。……もしかしてタコ墨か、あれ。
「うわあ、したまっくらですー」
「……そういやタコなんだよな、レイダ」
「はい。あの目くらましにはよく世話になりました」
カーライルの口調がちょっと昔を懐かしんでる感じで、本当に世話になったんだなこいつら、と思う。いや、多分俺も世話になってると思うんだ、何となくだけど。
と、カーライルが「コータ様」と呼びかけてきた。
「少々派手に撃ちたいのですが、よろしいですか」
「派手にって……下?」
「はい」
ちらりと真下を伺う。ふむ、どうやら今俺たちは聖教会の真上にいるらしい。そこから真下なら、まだ周囲への被害は少ないか。
……多分、マール教への宣戦布告になる、一撃だ。
「ここまで来て、被害出すなとか言わねえよ。戦争なら、人死には当たり前だ」
「ありがとうございます」
だから俺が許可を出すと、カーライルは龍の頭を軽く下げて、それから。
「がぁああああああああああっ!」
聖剣の紋章を掲げた聖教会を、真上からビームでまっすぐに貫いた。
……これでもあの教主、死んだりしそうにないなあ……。




