402.まずは出入り口の確保
衛兵の真ん前に、俺がにゅっと顔を出す。いや、フード被ってるし顔バレはしないと思うけど。あとタコ足すごいな、こんなことできるなんて。
「なっ」
「いただきます」
「んむっ」
速攻で唇に噛みつき、吸ってー吹いてー。はいいっちょ上がり、俺が離れると衛兵のお姉ちゃんはとろーんとした顔になっている。
「お前はここで、本来の任務を遂行しろ。ただし今までもこれからも、不審者が侵入したり動き回ったりすることはない。俺たちはお前にとって、不審者でも何でもないからな」
「はい。仰せのままに、任務を遂行いたします」
手っ取り早く指示をして、彼女を無闇に動かないようにした。と、そうそう、聞いておかないといけないことがあるよな。
「ちなみに交替すると思うが、何時頃だ」
「夜勤は全て、朝までの任務となっております」
「そうか、ありがとう」
結構長いよな、と思ったけどこういう世界だと無茶な勤務時間もあり、ってことか。……社畜にゃ戻りたくないなあ、うん。
こんな感じのやり方を、出入り口を挟んで四人ほどやっておいた。これで、侵入口と脱出口をひとまず確保できたことになる。
「やっぱ、この手を使うのが一番穏便だったな」
出入り口の前でレイダに降ろしてもらい、彼女が他の仲間たちを連れてくるのを待つ。ウサギ兄妹は俺のいるところの下まで着くと、自力でぴょんと飛び上がってきた。二人まとめて頭の上に乗っけて来たらしい……どんなんだよ、海王ネレイデシア。
「やっぱりコータちゃま、すごいです」
「えいへいさんたち、おとなしくなりましたね」
「全員吸ったわけじゃないから、そのへんは気をつけろよ」
『はーい』
二人が返事してしばらくすると、再びレイダのタコ足がニュルンと伸びてきた。カーライルとファルンをぶら下げて。
「お手数おかけします、ネレイデシア」
「こんなところで、あんたの本性晒すわけにも行かないからね。クァルード」
「レイダ様、ありがとうございます」
「ファルン、あんたはコータちゃまのお守りをしっかりするんだよ」
「分かっておりますわ」
この中で唯一俺の下僕で、マール教の僧侶であるファルンの役目。それは、聖教会の中でうっかり誰かに見られた際にうまくごまかす役目と、いざというときの捨て駒……だ。最悪、記憶を消して置いていくことになる。
仕方ない、とは思っているんだけど、何というか割り切れないよなあ。本人は平気だと言うけれど、結局の所それも俺の洗脳の為せる技なんだし。
「レイダ、後は頼んだ」
それはそれとして、ここまで送ってくれたレイダに後を任せる。無事こっそり脱出できたときはまた向こうまで送ってもらうし、そうでなければ……最低俺だけでも持って帰れ、とカーライルがぎっちり言ってあるらしい。
「お任せを。ご武運をお祈りいたしますわ」
「おう。……祈られるの、俺だよな」
「そうですわね」
くす、と笑ってレイダは、水面の下に姿を消した。




