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003.むかしむかしで今はいま

 昔々のお話だ。

 今、この世界で拝まれてる神様であるサブラナ・マールと、対立する神様であるアルニムア・マーダすなわち俺、との間で戦があった。

 でまあ、サブラナ・マールのほうが勝ったわけだ。そりゃまあ、負けてたら拝まれてないだろうからな、分かる。


 で、負けた方の俺なんだが……これがひどい扱いをされた、らしい。

 具体的に言うと、魂粉々に砕いてほとんど消滅に近い状態にさせられたんだと。配下だった強力な魔物たちの生命と引き換えに、だとさ。

 そんでもって、ほんの僅か残った魂を勝った神様がこの世界から追放したわけだ。身体は残っちまったから、石の中に封じ込めてな。

 何で魂全部、それに身体も砕いたりしなかったのかというと、うっかりそんなことをしたら最盛期仕様で復活するから、だとか。まじでゲームみたいだな、いっぺん殺して復活させた方が楽とかいう感じ? まあ、さすが神様だよなあとは思ったが。

 ……で、カーライル曰く。

 その僅かに残った魂が別の世界で何度も転生して、やっとこさ呼び戻せた結果がこの俺、なんだとよ。何でだよ。


「サブラナ・マールのことですから、コータ様を人の男として何度も生を過ごさせることで神の力を削ろうとしたのでしょう」


 中身が男であることを伝えると、カーライルは能面みたいな顔でしばらく考えてからそう言ってきた。

 案外落ち着いてるんだな、この兄ちゃん。つーか真面目に受け取られたか冗談だと思われたか、どっちなんだろう。いずれにしろマジレスしてくれたから、いっか。

 ところで、もしかして中身間違えたとかそういうことはないわけ?


「そんなんで消耗するのかよ?」

「神の魂に、人の身体は釣り合いません。コータ様から神の力を削るために、サブラナ・マールが貴方の魂を人の身体に押し込んだのでしょう。完全に消滅させることができないのであれば、極限まで力を削ってしまえばいいのだと」

「ふむ……てか、中身が違うってことは」

「それはあり得ません」


 うわ、きっぱり断言。けど、そういうことは証拠があるんだろうな。話を続けるようなので、聞いてみる。


「逆に、人の魂に神の身体も釣り合わないのです。過去に私の先祖が、そのお身体に自らが宿り復活しようとしたのですが」

「……復活してないってことは、できなかったってことだよな。そのご先祖様、どうなったんだ?」

「記録によりますれば、宿った瞬間に正気を失ったようです。そうしてそのまま魂は四散したらしく、封は解けぬまま。元の身体もまた、目覚めることがなかったそうです」

「うわあ」


 その一回で、そりゃやりたくなくなるわな。

 記録が残ってるってことは、こいつのご先祖様とその仲間たちで頑張ってやってみたんだろう。その結果が魂消し飛んだだけ、じゃあなあ。

 まあ、俺は正気……正気か? まあ、マシっちゃマシなんだろうし、普通にこう会話できてるしな。一応、カーライルの言うように身体と魂が釣り合ってはいるんだろう。

 対して、神の魂に人の身体が釣り合わないって方は、俺がアルニムア・マーダの記憶を持ってない理由になるらしい。つまり、見合わない身体に押し込まれたことで溢れた部分が消えたとか、あと身体と中身が合わないせいで消耗したとか。

 この辺はカーライルも詳しいことはわからないだろうし、そもそも当事者である俺が覚えてないからなあ。

 いや、カーライルの言ってることがマジかどうかも分からない今じゃ、判断しようもないな。これが実は俺の見てる夢ですー、と今更言われてもおかしくないわけだし。

 ともかく、この設定の前提で話を進めておくか。いろいろ突っ込んで、話をややこしくしても面倒だ。


「記憶がないというのは、そもそも世界を追い出された際に魂の一欠片だったことも影響しているのでしょうね」

「訳わからん……まあ、確かに神様だったことなんて覚えちゃいねえけど、でもしゃべれるんだよなあ」

「は?」


 カーライルのやつ、俺がそう言うと不思議そうに首を傾げた。ああ、俺が普通にお前さんと会話できてることに何の疑問も持ってないんだろうな。

 俺自身は寝る前と同じように会話してるつもりなんだが、実際はどうなんだかよく分からん。もしかしたら、全く別の言葉を使ってるのかもしれないけれど。


「いや、別の世界で同じ言葉使ってるなんて偶然でもそうそうないだろ。俺の知ってる世界じゃ、世界中にいろんな言葉があって大変なんだから」

「広い世界なのですね……この世界では、基本的には共通語が使われています。神同士の戦が行われるよりも前から使われていた、歴史のある言葉ですが」

「その方が便利でいいやな」


 ともかく、今まで意識しちゃいなかったけれど、言葉が理解できるのは助かった。世界のどこに行っても通訳要らなそうだし。文字が読めるかどうかは……あー、まあ読めなくてもカーライルがいるか。

 さて。

 ある意味最大の問題がある。俺、こと邪神になったアルニムア・マーダは見ての通り女神様、である。その中身である俺をだな。


「んで、何でわざわざ男にしたわけ」

「それなんですが……おそらくですが、理由は分かりました」

「お、マジ?」


 あ、ちゃんと考えてくれてたんだ。

 力仕事は厳しいけど、こいつそれなりに頭がいいらしい。いや、基準をどこにすればいいか分からないんだけど、少なくともこの世界に関して無知な俺にとってはたいへん助かるレベルのようだ。


「我らが神、つまりコータ様のことになるのですが。記録が残っておりまして……人間の精気を吸い取り、それを食事代わりとして活動なさるとのことです」

「えー」

「多分、人のお食事も取ることはできるはずです。宴を開いた折に飲食を楽しんだ、という記述もございましたので」

「あ、そりゃよかった」


 飯。飯重要。神様なので人の精気しか食えませんなんてことになってたら、ものすごくへこんでたところだよ。

 ろくに休みも取れない社畜にとっちゃ、飯は一時の安らぎである。いや、カップ麺とか五分でかき込んで仕事に戻る生活だったりしたけどさ。でも、飯は重要だろ。

 普通に飯食えるだけでも、ほんとありがたいわ。しかしそれはそれ、精気吸うってバケモンか。いや神様だっけ。


「また、精気を吸った相手にコータ様ご自身の気を吹き込むことで、その者を下僕として操る能力をお持ちでございます」

「あやつる?」


 そんでもって、続いたカーライルの台詞に俺は疑問を持った。あーうん、まあバケモンだか神様だかだし、そういう能力もあるんだろうな。いやいやいや、納得するのかよ俺。もう夢でもなんでもいいや、ここまで現実離れするとどうでも良くなるというか。

 まあそれはそれとして、女を男にするってのは何でだよ。そんな俺の疑問は、更に続いた言葉で解決した。


「今に伝わります書物の記述によれば、コータ様は男を寝所に引きずり込み己の下僕とすることが多々あった、と」

「あ゛ー」


 ひとまず頭を抱えた。カーライル、地味に発言に困ってたっぽいのはそういうことかい。

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