398.今日の目的を決めよう
ふと、気になったことをファルンに尋ねてみた。
「マール教では、俺たちがサブラナ・マールに歯向かってる理由とかあるのか?」
「そうですわね……サブラナ・マール様の尊い教えを受け入れられないとか、そういうお話を伺ったことがありますわ」
「交際を断ったのがそういう事になったりするわけ、なのかね」
「まあ、そういうことなのではないでしょうか? サブラナ・マール様が振られた腹いせとも、こじつけとも申しますけれど」
いくら俺の下僕だからって辛辣だな、ファルン。けどまあ、要はそういうことなんだろうな。
サブラナ・マールは俺に振られて戦争を起こし、可愛さ余って憎さ百倍だか何だか知らないが俺を散々な目に合わせた。というかまあ、転生組みたいに洗脳して手元に置かれなかっただけマシとも言うが……嫌だな、それはそれで。
いやもう、しばらくヤツのことは考えるのやめよう。次考えるのは、聖教会に侵入するときでいいや。
「マップはできたけど、これだけじゃまだまだかなあ」
「そうですね。実際に見ていないわけですし」
シーラが頷くのに、全員が続く。ま、奥の方なんてぶっつけ本番になりそうだけど、それまでは何とか情報を得ておきたいなあ。
……となると、観光客として入ってきてる、その身分を利用するか。
「神都サブラナの街は、聖教会の周りをぐるっと取り巻いてるんだよな?」
「あ、はい。そうですわ」
一応ファルンに、都の大雑把な構造を確認する。聖教会を三百六十度、どこからでも見られるのであれば最低外観は全てチェックできるわけだ。よし。
「なら今日は、その周りを観光がてら確認しよう。警備の薄そうな場所があれば、そこから入ることも検討したい」
「なるほど。分かりました」
「ま、要は片っ端から見物していこうってことなんだけどな」
「敵陣の視察は重要ですから」
カーライルが、俺の提案をうんうんとあっさり受け入れる。俺の考えてること、こいつは分かるだろうしな。何だかんだで、俺がこっちの世界に来てから一番長い付き合いなわけだし。
と、レイダが「ついでだし」と手を上げた。
「アタシは、水路の確認もしておきたいねえ。マール教側にも魚人や水棲獣人はいるはずだし、そいつらの動向も確認しとかないとアタシが動きにくい」
「何か薬とか流されてても嫌ですしね……」
「住民の飲み水とかも兼ねてそうだし、それはないと思いたいけどな」
水路に薬、か。シーラの考えって要するにダム湖や井戸に毒、と似たようなもんだろ。飲み水の水源だけ別とかならともかく、そういう面倒はしてない気がするけど……水路のほうが排水、の可能性はあるのか。気をつけないと駄目か、そりゃ。
「まあ、こっちに海王ネレイデシアがいることは向こうも分かってるはずだし、海の勢力がかなりこっちに傾いてるのも知ってるだろう。気をつけておかないとな」
結局は、向こうがこちらの状況をどこまで知っているか、ってところだな。もしかしたら、俺たちの潜入も既に知られてて泳がされてる、なんてことにもなりかねないし。
それならそれで、腹の中から食い破ってやる気は満々だけどさ。
「それじゃ、表向きは今日も観光ということでいいな」
『はい!』
結論は、そういうことになった。




