397.昔の地上と今の地下
「サブラナ・マールのことは置いとこう。昔と同じなら、そのうち俺に何やかや言ってくるはずだ」
「それはありえますね……」
「ま、今更嫁になれとか言ってくるようなら鼻で笑ってやるけどな」
全く。そんな神様を信仰して生命まで賭けてる、マール教信者の皆がちょっとかわいそうになるよ。
前の俺も全力で振ったんだろうけれど、その結果がこれだからなあ。次は頑張らないと。
さて、変態神様と難しいことは分からないウサギ兄妹は置いといて、だ。ちなみに後者は出入り口にいて、外の気配を監視してもらっている。
「マップの方はどうだ? できたか?」
「は、ざっとですが」
そう言って、カーライルがテーブルの上に紙を広げてくれた。その横に、ファルンももう一枚広げる。
ぱっと見、似たような建物の構造図だな、これ。
「これが、かつての戦のときに使われた本拠地の大体の構造です」
「わたくしの方は、知っている限りの聖教会の構造ですわ」
広げた本人たちが、それぞれを説明してくれた。なるほど……確かに似た構造してるわ、この二つ。じっくり見比べると、似てる場所がはっきりわかる。
「これ、がっつり流用してね? この地下部分、本拠地だったときの地上階だろ」
「使い回してますねー」
「だよな」
カーライルたちが書いた本拠地は、俺たちが負けてマール教に占領された後埋め立てられた。だけどこの建物は完全に潰されず、ちゃっかり再利用されたってことだ。
「ということは」
二つのマップを見比べて、とってもよく似たところがあるのに気がついた。転生組の方だと玉座の間、ファルンの方だと……教主執務室。これ、執務室の中は真っ白だけど外の廊下とか階段とかから考えると。
「この地下にある執務室って、俺の玉座だったところかあ……」
「そのようですね。マーダ教の長がおわしたところに今、マール教の教主が居座っていると」
シーラが俺と同じように二つを見比べて、はあと肩をすくめる。と、ファルンが手を伸ばし、真っ白で中が何も描かれていない執務室の、廊下と反対側を指で軽く叩いた。
「この裏に、教主様との夜伽に使われる部屋があるというお話ですわ」
「……昔は俺が使ってたんだな、多分」
ちらり、と本拠地時代のマップに目をやる。そこにはもう一つ部屋があり、寝室と記されていた。この場合の寝室ってつまり、ガッツリやることやるための部屋、ってことだろう。
「昔のコータ様は、主に男の精気を糧になさっておりましたから」
「前に聞いたな」
レイダが思わず口調変えて答えるのは、微妙に緊張してるからだろうか。いや、大丈夫だから今更。というか、外見ロリっ子なの気にしてるわけでもないだろうに。
「ま、だからマール教の僧侶や勇者が女性ばかり、ってのは納得がいく。俺に吸われたり吹き込まれたりして、男が使えないんだから」
現在のマール教で、教主を除いた僧侶は皆女だ。勇者として選ばれてるのも、どうも伝説なり何なりを鵜呑みにすれば全員女、と言っていいだろう。その理由が『男は俺が吸った』でもまあ、しょうがないとは思う。
思うんだけど、なあ。
「ただ、そもそもの原因が単なる痴話喧嘩かもしれない、ってのはなあ」
そんなしょうもない理由で世界規模の戦争起こされたら、住民堪ったもんじゃないぞ、おい。




