381.作って売るならどこで売る
ガイザスの奥さんが工房のすぐ側の部屋を作業部屋にしてると聞いたので、そっちも覗くことにした。
ドンガタのお店にあった看板をそのまま持ってきて飾ってるらしい部屋のドアをノックすると、すぐに開いて奥さんが顔を出した。
「あら、コータちゃま」
「こんにちはー。城にきてくれたって聞いたもんだから、顔を見に来ましたー」
「わざわざありがとね。本当なら、こっちからご挨拶に行かなきゃいけなかったんだけど、仕事がねえ」
「仕事、詰まってるんだったら仕方ないですよ」
「まあねえ。ここの武具用の小物、扱わせてもらってるから」
うん。引越し蕎麦とかいう習慣もなさそうだし、仕事あるならしょうがないさ。俺の方が暇なんだから、こっちから挨拶に来るのが当然ってもんだ。
お、そうだそうだ。
「……小物とかの材料、大丈夫ですか。必要なものがあったら言ってください」
「ああ、ありがたく使わせてもらってるよ。ドンガタから持ってきた分もあるし、しばらくは大丈夫そうだ」
奥さんの答えを聞いて、ほっと胸をなでおろす。ま、しばらくはだから、仕入先を考えないとなあ。
仕入先……と言えば、納入先も考えないと。ここで作ってるだけじゃ、どうしようもないものもあるはずだ。そう思ってたら、奥さんも同じことを考えていたようだ。
「にしても。ここで作っても、売れないんじゃないかい? アルネイドはこっちの傘下なんでしょう、マール教が営業妨害してきそうじゃないかねえ」
「まあ、確かに」
うん、一応アルネイドには卸そうかと思ってるんだけど。でも、そこだけじゃ売れないよね……ドンガタはああだし、バッティロスまで持っていくのも遠いしなあ。
でもそれは、うちの支配下にあるところでしか売らない、場合の話だ。
「ただ、表向きには言えないけれど、マール教の勢力内でも売れそうな街はありまして。そちらに出荷して、現金収入が得られるかもしれないんで」
口から出まかせ……というわけじゃない。マール教勢力圏内でも俺の下僕はいるわけで、そういった連中を通じて売ることはできるかもしれない。
権力者を握っているといえば要するにサンディタウンのことなんだけど、そこをさすがに口外するわけにもいかないしな。何かの拍子で外に漏れたら大変だし。
「おやおや。そういうことなら、あたしも頑張らないとねえ」
「頼みます。……あ」
奥さんがやる気になってくれたところで、ふともう一つ思いついた。良さそうかなと思ったので、提案してみる。
「なんなら、こっちの皆用にお守りか何か、作ってもらえないかな。……効果あるかどうか、分からないんだけど」
「作った後でコータちゃまが祈ってくれるなら、喜んで」
「そのくらいなら」
何で俺が祈るのか……なんて言いそうになったけれど、そこは自粛した。いや、よく考えたらそれが当たり前のことだった、ってことに気がついて。
「……あ、そうか。マーダ教のお守りなら、守るの俺か」
「おや、気づいてなかったのかしら」
「自分が神様だってことも忘れそうになりますし」
というか、時々忘れてる。獣人ロリっ子のボディに入った独身社畜が、実は邪神様なんだってのが盛りすぎなんだよな、いろいろと。
とはいえ、俺の信者のためなんだから祈るくらいならいくらでも。
「ありがたいねえ。我らが神様が御自ら、あたしたちのために祈ってくれるなんてさ」
……そうか。マーダ教のお守りってことは、俺が皆を守るお守り、なんだものな。
うわあ、責任重大。
って、こっちが俺だってことは、あっちはどうなんだ? サブラナ・マールが表に出てきてないんなら、誰が祈るんだろう?
「あれ。マール教のお守りとか、サブラナ・マールが祈るんじゃないんですか」
「基本そこらの僧侶だって話は聞いてるねえ。神都サブラナまで行けば、教主様自らがご祈祷くださったありがたーいお守りがあるらしいけど」
「……てことは、うちだとカーライルか……」
ああ、まあそうなるか。僧侶でも、この世界だとかなり優遇されてるみたいだしな。
にしても……俺が祈ったお守りと、カーライルが祈ったお守りと。並べて売ったら売れるかな?
いや、カーライルでも龍王クァルードだから、結構ご利益ある気がするけど。




