379.危なかったら逃げるが勝ちよ
結局、戦争は避けられないのかなあと思いながらあちこちの情報を集め、食料や燃料を集め、配下たちに訓練を施している日々。
そんなある日、ガイザスたちが北方城に入るという話がやってきた。ドンガタを出てきたらしい。
「ガイザス工房が、全員?」
「はい。全員で移ってきました」
「そりゃ助かるが……何かあったか」
今回の報告はシーラが持ってきてくれた。四天王たちはそれぞれ配下の訓練やら何やらに忙しいとのことで、まあそりゃそうだよなあ。
それはともかくとして……だ。ドンガタの村を出たのはいいんだけど、東方砦に入らずにこっちに来たのか。砦じゃまずいことでもあったのかな。
「坑道が崩落して、数名死亡したとのことですが」
「……何かあるのか」
ことです「が」。その一文字が、何やら怪しい感じである。
そうして、シーラがくれた答えはとても端的なものだった。
「恐らくは、人為的に崩落させられたと」
「そりゃ、さすがに逃げてくるか」
人為的な崩落。
鉱脈狙ったのか、ガイザスの生命を狙ったのか。どちらにしろ、危険なのは危険だからドンガタを脱出してきたと、そういうことか。
「狙われた、ってことでいいんだよな?」
「ガイザス殿が独占していると言っていい場所だったそうですから、おそらく」
「分かった」
そりゃ、マジで鉱脈か生命の二択だな。とっととこっちに逃げてきたのは多分、正解だろう。
東方砦も鉱脈の続きだったはずだから、そこに逃げ込むわけにはいかなかったのだろうし。
さて、そうなるとガイザス工房の入るところは……考えるまでもないな、うん。
「地下の工房か。ちゃんと仕事できるようになってるのか?」
「はい。ある程度の設備は整えておきましたので、すぐにでも仕事はできるかと」
それは良かった。こちらの装備を手がけてもらうには、場所としては申し分ないな。ガイザス工房の皆の腕も、俺は知ってるし。
……奥さんの小物とか飾りとかも、一緒に来てるのかな。わ、何か楽しみだ。四天王とか女の子多いし、そういう楽しみがあってもいいよな。
「ただ、今まで使い慣れたところと勝手が違うかもしれないからな。フォローと、あと原材料の手配も頼んだよ」
「承りました」
「それと、奥さんの方も」
「ああ、布モノや小物などですね」
なんで、材料の手配ついでにそう言ってみたらシーラも嬉しそうに頷いてくれた。やっぱ、殺伐としすぎるのは良くないよなあ。
今なら何となく、お守りとか作ってもらえそうだし。
そういうわけで、布や糸といった素材も準備してもらえそうだ。奥さんのものでなくとも、剣や盾の持ち手に巻いたりもするしな。ボロ布なら確実に作業には使うわけだし、うん。




