377.向こうの考えこちらの考え
考える間もなく、俺はスティに指示を出した。
「各地に燕を出せ。マール教が狙ってるってな」
「ブラヴィアンの持ってきた話を伝えて、気をつけるように指示をします」
「頼むぞ。それでいいよな、ファルン」
「ええ。地名を出したということは、マール教もそこを狙っていると考えてよろしいかと」
アルネイド、ドンガタ、バッティロス。少なくとも名指しされたところには、それを伝えたほうが良いと思ったからだ。
ファルンもそれでいいと言ってるわけで、なら急いで連絡をしたほうがいいはずだ。
……とそこまで考えて、名前は出てないけど伝えたほうがいいよなあ、というところを思い出す。
「あ、レイダのところにも伝えてくれ。マール教側でも、魚人たちの動きは察してるんだろうしな」
「分かりました。そうですな……水棲獣人などもおりますから、どうしても陸上拠点は必要になりますし」
「ネレイデシア様の拠点でしたら、確か島でしたわね」
魚人や水棲獣人をまとめている、海王ネレイデシアの拠点。こちらの大陸を本土として、そこから離れたところにある島にある、という話は聞いたような。
「そのうち、見に行きたいな」
「戦になる前に行った方がいいでしょうな。何でしたら、俺が手配しておきますが」
「いいのか?」
「もちろん」
ふっと口に出したことを、あっさり拾ってくれるスティ。
ファルンは楽しそうにこっちを見てるだけで、ついてくるとかそういうのはないらしい。……下僕じゃなくなったら、スパイになっちまうからかなあ。いや、そういう判断力ってあるのかどうかは知らないけれど。
「本当に戦争になってしまったら、行く機会どころか存在すら破壊されかねませんから」
「……ああ、それはあるなあ」
ただ、スティが付け加えてきた理由にうわ、と思ってしまった。
レイダたちが拠点としている島は、多分昔レイダが使っていた島だ。それならマール教は存在を知っているし、ファルンがどうとか以前に調査なり何なりしてると思って間違いない。
……何となく、マール教を叩き出したレイダが「私は帰ってきたあ」って楽しそうにタコ足膨らませてる様子が想像できるけど。ま、お前のうちといって間違いないもんな。
「そのうち、視察なんて感じで行ってみるか。海の中だから、船で行くか空飛んでいくかだよな」
「シーラ様に飛んでいただければ、解決するのではありませんかしら?」
「ま、そうなるよな」
船で行くか飛行機で行くか、どっちがお手軽かという感じの話なんだけどな。
うちの場合少なくともカーライル、ルッタ、シーラの三人が空飛べるけれど、カーライルとルッタは四天王で、あんまり城を空けるのもちょっと問題だ。先々、彼ら自身の拠点を持つことになったら別だけど。
そうなると、シーラが飛んでくれるのが一番手っ取り早いという話になる。船は……近くの本土の港から出さないといけないけど、どうやって船を出すかなんだよなあ。チャーターかレンタルか? あと、行き先の説明も問題だよな。
「ま、期待しないで待つよ」
「了解しました」
「行けるといいですわね、コータ様」
スティは俺の言葉に生真面目に答え、ファルンがほんわかと微笑む。いやほんと、行けたらいいけど何かあったらゴメンな、とその時は思っていて。
「レイダの島を、マール教が強襲した?」
あーごめん、フラグ立てちゃったなあと俺が思ったのは、ブラヴィアンが城を訪れてから十日後のことだった。




