375.向こうの使者がやってきた
マール教から、教主の使者がやってくるという話が来たのはアルネイドを支配下に置いてから半月ほど後のことだった。
多分、情報が神都サブラナまで行くのに時間がかかったんだろうな。使者を派遣するのも、同じくらいには時間がかかるわけで。まあ、結構急いだほうだとは思う。
「マール教教主直属部隊、副部隊長のブラヴィアンという」
でまあ、もちろんというか女性が来たわけだ。スティと比べるとちょっと小柄だけど、女性としてはかなり大柄な体格でぶっちゃけマッチョ。前の世界で言うところのアマゾネスとか、そんな感じのワイルド姉ちゃんだ。
「北方城の主、獣王バングデスタだ。敵陣の中枢にのこのこやってくるとは、度胸があるのかただの馬鹿かどちらだ?」
「何、私が帰ってこなければ我が部隊が動くまでの話だからな」
城主として玉座の間で迎え撃ったスティと、平然と話をしている辺りは度胸も据わっているようだな。それにブラヴィアンか、彼女を迎えたのはスティだけじゃなく、それなりに戦闘訓練で鍛えたうちの兵士たちもだし。
その兵士たちをぐるりと見渡した後、ブラヴィアンは言ってのけた。
「主神は不在か」
「滞在していたとして、敵対勢力の使者の目通りが即刻で叶うと思うか?」
「確かにな」
スティが当然のように返すと、彼女も頷いた。そうそう、いきなりマール教の使者が俺に会いに来て会えるかっつーの。
さて、そうするとマーダ教の主である俺はどこにいるか、だが。
「ま、いきなり俺、というか邪神に会わせろなんつったら単に刺客だよな、それ」
「そう言ったことを警戒して、マール教の教主様でもそうそうお会いできる機会はございませんもの」
手っ取り早く言うと、スティがいる玉座の後ろ、カーテンめくった向こう側である。背後を取られないように、ここに伏兵とか潜り込ませとくための空間があって、そこにファルンと一緒にいるわけだ。ちなみにカーテンは結構薄くて、こっちからだと向こうがまあまあ見える。
マール教側の言い分を、俺自身が聞くためにここにいる。直接会話をすることなく、情報を得るために。
と言うか、ロリっ子獣人が出ていって俺が邪神だっつーて信用されるかわからないし、信用されても舐められるかもしれないし。
「だよなあ。敵対勢力が存在するって分かってんだし、当然警戒はするか」
「それに、このお城はもともと本当にバングデスタ様のお城ですもの。城主としてバングデスタ様が御出になるのは、何もおかしくありませんわ」
「そうだな。しばらくは任せてみるか」
のほほんとカーテン裏で様子を伺っている俺たちとは裏腹に、スティとブラヴィアンの方はかなり緊張している。マール教の使者が何を伝えに来たか、が正直分からないからなんだけど。喧嘩売りに来たわけでもなさそうだしな。
「して、何用だ? 降伏勧告ならば、聞く前に却下だが」
「分かっている。こちらも期待はしておらん」
違う意味での喧嘩売りでもなさそうだ。マーダ教がマール教の降伏勧告聞くなんて、そんなわけないもんな。
「ドンガタ、バッティロス、アルネイド。これらの街や村から手を引くならば、我らが教主様はマーダ教に一定の自治権を与えるとおっしゃっておられる」
「ふん」
とは言え、その後に出てきた条件らしきものにも声に出さずにおいおいおいとツッコミを入れる。
要は、こちらの支配地域を全部明け渡せってことじゃねえか。ふっざけんな、こら。




