372.こちらとあちらで違うこと
一時保護施設は、アルネイドの街の南側入口近くにある。要は城に来る出入り口と反対側だ。城に近づかないように、という配慮らしい。
「あちらが、間もなく解放される手はずになっている者たちです」
「そっか」
こっそり、とはいえ領主が自分で案内してるのは良いんだろうか、と思いつつその後ろについて歩く。中に入ると大変だろうから、外から見ているだけだけど。
「コータちゃま」
「え」
ミンミカが一か所を指す。その先を見て、赤い短髪の兄ちゃんに気づいた。ああ、間違いない。あれから少しやつれて、髪伸びたみたいな感じがするけれど。
「ガゼルさんだ」
「まちがいないですー」
俺も、ミンミカも確認した。あれは間違いなくガゼルさんだ。エンデバルからここまで、頑張って来てくれたんだ。
良かった。
「そうでございましたか。お知り合いの方がご無事で、良かったですね」
「うん。ありがとう」
領主もホッとしたように笑ってくれて、だからここにいる全員が笑顔になった。
ほんとはこういう贔屓とかしちゃいけないんだろうけど、でも覚えてる人が無事にいてくれてるのは、やっぱり嬉しいからな。
「コータちゃま、あいにいくですか?」
「いや、やめておく」
ミンミカの提案もすごく魅力的だったけれど、でも俺が覚えていてもガゼルさんの方が覚えてるかどうか。
それに、やっぱりさ。
「俺は神様だからな。あんまりひいきをすると、信者たちもいやだろうし」
「わかったです。コータちゃまも、たいへんですね」
「まあなあ……偉い人というか神様って、大変なんだよな」
俺の答えをミンミカがすんなり受け入れてくれたのはちょっと意外だったけれど、彼女もそれなりにいろいろ考えてはいるんだな。
昔のアルニムア・マーダがどうだったのか、俺は覚えていないけれど。少なくとも今の俺は、あまり身びいきとかはしたくないというか……そういうことしてたら、この先しんどくなりそうだからな。戦争になったら、それどころじゃなくなるわけで。
「しかし、サブラナ・マールは教主や一定の僧侶を己が懐に収めていると聞いたことがありますが」
「……」
ここで領主が、突っ込みというか何というか事実、なんだろうなと思えることを口にした。噂として流れてくる話なんだろうけれど、マール教の場合神が勇者にアレやらコレやらしたなんていう話だからなあ。
「この先、勇者が出てきたらマール教の神がご贔屓した、って証拠になるんだな」
「まあ、そうなりますね。勇者には神が力を与えるために同衾する、というのは皆知っている話ですし」
「コータちゃまはひいきしないのに、サブラナ・マールはひいきするんですねー」
……いやほんと、ミンミカ。お前、ズバリと本当のこと言うよなあ。そういうところが、良いんだけれど。




