370.街に住みたい人がいる
アルネイドを支配下に置いて数日。たまに街を見に行ったりするんだけど、今日はミンミカを連れて行った。
そしたら領主のところに案内されて、実は少し前から移住希望者がやってきているのだという話を聞いたんだよな。
「移住希望者?」
「はい。立地が立地なものですから、あちこちで差別された者たちがクルンゴサや我が街にぼつぼつ姿を見せ始めておりまして」
「あ、なるほど」
北方城はスティの住んでた城だからなあ。その足元や近くにある街にそういう人たちがやってくるのは、ある意味自然な流れか。
不法移民とかもいるんだろうけれど、今回話が出ているのはきちんと移住を申請してる人たちのことだな。
……不法移民もそのうちちゃんとしないと、だけど。
「一時保護として街の一角に集め、それぞれ調査をして問題ない者から受け入れておりますが」
「わるさしないひとから、さきにいれてあげるですか?」
「そういうこと。うっかり教育部隊とか上位の僧侶とかがスパイとして紛れ込んでるかもしれないから、調査は必要だよね」
ミンミカの言ってることが、結局は受け入れる順番としては重要なんだよな。そう、要は俺たちに対して悪さをしないやつが優先だ。
「それで逃げる者もいるようですね」
「度胸ねえなあ。潜り込むつもりなら頑張れよ」
何だ、素性バレたらまずいやつもいるのか。マール教の偉いさんとか、あと犯罪者もいたりするんだろうな。
どっちにしろ、街に入りたいなら素性詐称頑張らないと駄目だろうが。……ああ、そういうのが不法移民になったりする可能性もあるな。
「ま、頑張られると、困るのはこっちだけどな」
「それは確かに」
変に頑張ってもらっても困る、か。それは領主も、同じ意見だよな。やれやれ。
「で、どんな連中が来てるんだろう」
「獣人がどうしても多くなりますね。特に、混血の者が」
「混血? あー」
獣人で、混血。ふっと思い出したのは、エンデバルの街で出会ったガゼルさんだった。角が小さかったからバレなくて、それでも俺たちが街を発つ寸前くらいにこっそり教えてくれたんだよなあ。
「はっきりそう言ってたのには、一人だけ会ったことがある。周囲には隠してるみたいで、大変そうだった」
「まさにそこなのですよ。他種族との混血を、マール教はあまり歓迎しておりません」
「どーせ汚れた血がどーたら、とかだろ。聞きたくねえな」
「こちらもお聞かせしたくありませんが、実にそういうことですね」
結局、そういうところが駄目なんだよなあマール教は。獣人や魚人や鳥人でもちゃんとした信者はいるはずで、そういった人たちをきっちり同じように扱ってくれてれば、俺に勝ち目は全くないんだから。
「おとーさんとおかーさんがどんなしゅぞくでも、だいすきでうまれたのに」
「お前みたいなやつが、何でマール教の偉いさんにいないんだろうなあ」
ぷう、と頬をふくらませるミンミカを、そう言ってなだめる。いやほんと、何でそういう考えのやつがいないのか。
あるいは、マール教の中で昇進していくに従ってそんな考えを捨ててしまうのか。
やだな、そういうのって……なんて思ってると、領主が書類を持ってきた。
「一応、名簿をお持ちしましたので目を通していただけると。アルタイラ様にもお願いしたいのですが」
「ああ、教育部隊っぽいのなら分かりそうだもんな、ルッタ」
なるほど、移住してきた人たちの名簿か。潜り込みたいやつが如何に偽名なり何なり使ってても、何となくルッタは見抜くかなー、と思う。後でチェックしてもらおう。
で、パラパラと見ているうちに、ふと目が止まった。
「あれ?」
エンデバル出身、ガゼルという名前を見て。




