368.この街は俺の街
ふと。
肝心なことに気づいて、おれは領主に向き直った。
「そういえば、街の名前聞いてなかった気がするんだ。教えてくれるかな」
「は、はい」
冷や汗をかいているのか、顔色が悪くなりながら領主は、街の名前を教えてくれる。
「この街は、アルネイドと申します」
「俺と名前、似てるな」
「も、申し訳ございません!」
え、そこひれ伏すところか?
そう思ったんだけど、もしかして俺が怒ってるとか思ってしまったかな。別に、名前が近いなら俺は嬉しいんだけどな。
「お、おそれ多くもアルニムア・マーダ様と近しい名を名乗るなど」
「いや、怒ってないよ。嬉しいだけ。俺と近い名前の街を作って、今まで守ってきてくれたんだから」
やっぱりか。
ちと照れくさいな、と思いながら顔がほころんで仕方がない。これ、外から見たらロリっ子がえへへ、と笑ってる状態なのかもしかして。
……まあ、変なもの見せたわけじゃなさそうだし、いいか。
「……そろそろ、お戻りになったほうが」
カーライルが、小声で俺を促してくる。そうだな、とひとつ咳払いをして、顔を引き締めた。
「じゃあ、これからアルネイドは俺の支配下に入る……けど、領主の上に俺が来るだけで基本的には何も変えなくていい。上納金、少しくらい収めてくれるとこっちが助かるけどな」
「はっ」
少しじゃなくて一杯欲しい、ってのが本音だけど、観光の街だから収入がなあ……。農村とかも支配する必要があるかあ。漁村はレイダが何とかするだろう、と思う。
で、支配地は守ってやるのが当然。だから、こちらからちゃんとその話も出す。
「街を守るのには、俺の方から衛兵を出す。ちゃんと教育した者を出すけど、もしそいつらが無茶を言うなら城に言ってくれ」
「あ……ありがとうございます!」
このくらいはほんと、当然だよな。というか、マール教が取り返しに来るかもしれないから、戦力の常駐は必要だし。
まあ、人選は四天王たちに任せることにしよう。いいよな、とルッタに視線を向けたら小さく頷いてくれたので、大丈夫っぽい。
さて、ひとまずはこんなところかな。
「詳しいことは、領主のところに俺の配下を送る。そっちで交渉してくれ」
「承りました。こちらでも、望むことをまとめておきましょう」
「そうだな。そうしておいてくれ」
ん、交渉も何とかいけそうだ。この領主、ちょっと気弱かもしれないけどちゃんと領主できてそうだな。
後は、俺の支配を受けたくないものへの宣告をここでしておこう。
「そういうわけで、アルネイドの街はこの俺、アルニムア・マーダの支配域とする。文句があるものは退去を許すから、早めに出ていってくれ」
精一杯声を張って宣言して、俺はカーライルに飛び立つよう命じた。もちろん、呼んだ名前はクァルードだけど。




