367.こちらの街とあちらの答え
「あ、アルニムア・マーダ、様?」
「まことで、ございますか」
カーライルの咆哮の効果が切れ始めたのか、住民たちが俺を見てまたざわざわと騒ぎ始めた。
まあ、言っちゃったしなあ。
「俺が信用できなくても、アルタイラとクァルードは信用できるんじゃないか? アルタイラにはルシーラットもついているんだし」
「我らよりも、あなた様のお言葉のほうがよくよく信じられると思うのですが」
「そんなこと言ったって、こうだぞ?」
カーライルの言葉に、思わずフードを取る。途端、ざわざわがもっと増えた。……何で可愛いとかいうセリフが増えてきてるのかね、それどころじゃないんじゃないか、お前ら。
と、それよりも言っておかなくちゃならないことがあるよな。余計な迷惑をかけた、住民たちに。
「北方城の麓だったこともあって、教育部隊は狙いをつけてきたのだと思う。代表して謝るよ……迷惑をかけて、ごめん」
「え、あ、いえ!」
偉そうなのはアレだけど、さすがにこんなちっこいのが降りて頭を下げても見えないから、カーライルの背中にいるまま謝る。
即座に返事をしてくれたのは、細身で頬もコケたおっさんだった。ちょっといい服着てるから……もしかして、領主とかか?
それならちょうどいいから、話を持ち出そう。俺が勝手に進める話だけど、特に問題はない……と思う。
「それで……街の長はお前かな。話があるんだが」
「は。自分が領主です」
「ああ、やっぱりか」
うん、おっさんが領主だった。よし、さくさく行こうさくさく。
「込み入ったお話でしたら、自分の屋敷で伺いますが」
「ここでいい。いずれにしろ、住民の皆にも諮ってほしい話だからな」
カーライルが、何となく中身が理解できたような顔になる。龍でもそういう表情、結構分かるんだな。
ルッタとシーラは何も言わず、俺が何を口にするかを待っていてくれる。ほんと、さくさく行くとしよう。
「ものは相談なんだが、この街をまるごと、俺の支配下に入れないか」
「は?」
領主のおっさんが、目を丸くする。もちろん、他の住民たちもだ。唐突な提案で悪いかな、とはちょっと思うんだけど。
「俺たちを信仰してくれるなら、足元でもあるし頑張って守りたいと思う。まだ配下の数が少なくて、遠くまで手が回せないんだ」
「そ、それは」
「話を蹴ってくれても良い。その場合でも、むやみに手は出さない。こちらに攻め込んでくる用意をしてたりしたら別だが、そうでなければ滅ぼす理由にはならないからな」
その場合マール教の方がどういうことをしてくるかは分からないんだけど……もし戦力をもってむりやり踏み込んでくるつもりなら、それは守らなくちゃいけないと思う。
足元、というか俺たちにとっては重要な場所にある街だから、こういった話はちゃんとしておかないといけないと思ったんだ。
領主は、しばらく考えて……そうして、「アルニムア・マーダ様」と俺の名を呼びながらひざまずいた。
「どうか、我らの信仰をお受けくださいませ」
「いいのか?」
マーダ教の街として、俺の支配を受け入れてくれるということらしい。いや、提案したのは俺だけど、本当にいいのか?
困惑した俺に、あっさりとひざまずいてくれた理由を領主はさらりと教えてくれた。
「そもそもこの街は、北の城にお住まいであったバングデスタ様にお仕えする者共の子孫が集まって住んでおります。アルニムア・マーダ様はバングデスタ様を従える者、であれば我らはお仕えするのが当然のことでございますな」




