366.こちらの神とあちらの言い分
「……そろそろ行っとくか。追い打ちみたいに」
「参りましょうか」
カーライルに声をかけると、頷いてくれてそのまま街に向かっていく。と、ルッタとシーラが気づいてくれたようでこちらに目を向けた。
「おいでくださいましたか」
「まあな。いやほんと、いい加減にしたほうが良くないか? マール教」
ルッタの言葉に、軽く張った声で答える。……声はどうしても、子供のものになっちゃうよなあ。しょうがないか。
「な……」
「皆の衆には、お初にお目にかかる。我が名はクァルード、アルニムア・マーダ様にお仕えする龍人の長」
先にカーライルが、本来の名前で名乗った。俺も、続こう。
「我が名はアルニムア・マーダ。かつてサブラナ・マールに封じられた、マール教から言えば邪神だな」
「なっ」
うん、マール教も住民たちもざわつくのはすごく分かる。何しろ、伝説の邪神と言うやつだろうしな、俺は。
それがいきなり現実に出てきたら、嘘でも本当でもざわざわするよな。うん。
「クァルードの尽力により、俺は今この世界に蘇っている。四天王たちも、俺が復活させた」
これは嘘じゃない。俺はクァルード、カーライルが必死に呼び寄せたアルニムア・マーダの魂の欠片だ。
四天王は全て、カーライルも含めて俺が復活させた。……信じる、信じないは勝手だけど。
「マール教。お前らが喧嘩売ってこないなら、こっちもおとなしくしてるつもりはあるんだが」
「それを焚き付けてくるのはマール教、貴様らの方だ。我らと我らが神の怒り、今その身に思い知らせようか?」
一応戦闘態勢に入った教育部隊、相対するシーラとルッタを前に俺たちは、こちらの意思を表明する。いやほんと、喧嘩売ってこないならこっちも買う必要ないし、正直うってほしくないんだよね。
「ふ、ふざけるな!」
「マーダ教は悪! 世界はマール教によって、正しくあるのだぞ!」
「獣人や魚人たちへの差別が、正しい世界だと?」
「マーダ教に与した者が、生きていられるだけでもありがたいと思え!」
シーラが眉間にシワを寄せながら投げかけた言葉を、教育部隊はまあムカつく言葉で返してくれた。
これは一発、脅しを掛けておいたほうが良いかもしれないな。なあ、カーライル。
「失せよ! 愚か者がああああああっ!!」
「ひいいっ!」
「わあ!」
「お、お助けをっ!」
びりびりと、カーライルの雄叫びによって空気が震える。それは同時に、人々の心まで震えさせたらしくて……教育部隊がパニックを起こして、我先にと街を飛び出していく。
街の人たちは足がすくんだり頭抱え込んだりしたけれど、その場を動くことはない。人によって、効果が違うんだな。




