363.麓が何だか賑やかで
「遠い街でマーダ教が暴動を起こして、死者が多数出た?」
「という、噂ですね。真偽は全くの不明です」
そういう報告を受けて、さてどうするかと頭を抱えた。報告書読んでくれたカーライルも、眉間を指先で揉んでいる。頭痛するんだろうなあ、龍でも。
「麓の街でも、噂になっていましたね」
今日はルッタが一緒にいて、彼女がそう教えてくれた。そういや昨日だったか一昨日だったか、買い物に行ってたみたいだし。
「確認はできたのか?」
「燕に飛んでもらってます。数日中にははっきりするかと」
「……」
まあ、それが一番早いよな。この世界じゃ、燕が全速力で飛んで確認しに行くのが最速の確認方法なんだから。
「どうしても、時間がかかるな」
「致し方ありません。ですので燕には確認してもらいがてら、可能なら逆の噂を流すよう命じております」
「逆?」
「つまり、暴動を起こしたのはマール教、ということでしょうね? アルタイラ」
「そういうことだ」
「なるほど」
ルッタの機転に感謝しつつ、ちょっと考える。
この世界では、情報戦といってもこの辺が限界だ。どうしても時間が掛かるし、うまく広げられるかと言うと不安もある。
ただ、やっとかないとこっちが不利になるのだけは確実だからな。
「コータ様!」
そこに、シーラが駆け込んできた。ものすごく焦った顔をしているから、緊急事態らしい。
「麓の街を、マール教教育部隊が襲撃しています!」
「はあ!?」
えらく急だな!
というか、ここの麓ってことは思いっきり本丸狙いで来てるだろ、教育部隊め。
「行ってまいります!」
「ルッタ! ……頼む!」
俺の言葉を待たずに駆け出すルッタに、俺は頼むとしか言えなかった。頼んで良かったのか、とも思うのだけれど。
教育部隊、つまりはルッタの配下だった連中だからな。
辛いとは思うけど、俺と俺の四天王の中で、一番顔が割れているのはルッタ自身。だから、できるだけ向こうに俺たちの顔を知らせたくないんだ、と自ら飛び出したんだろう。
「シーラ、ついてけ!」
「はっ!」
せめて、ルッタの直属の配下であるシーラを向かわせることで、ちょっとはルッタが楽になるかなと思う。ただ……戦闘になったりしたら、ただでは済まないはずだ。放ってはおきたくない。
で、どうせなら……と、カーライルに視線を向ける。これも、情報戦の一貫だな。
「カーライル」
「参りますか?」
「少し後から龍に乗って向かえば、ちょっとは威嚇になるだろ」
「なりますかね。相手は教育部隊ですし」
ふむ、と考え込むカーライル。ただ、本人微妙に乗り気っぽいのは気のせいじゃないだろう。
「リアルの龍なんて、今じゃ見る機会ほとんどないだろうし」
「なるほど。分かりました」
つまり、ガチの龍人族を見せる。これで向こうは全力でこっちを殺りにくる態勢に入るだろうが、その前にあちこちの村や街が反乱を起こすように仕向ける、しかないな。これもまた、噂をとっとと流せばいいわけだし。
「ついでに、何人か龍人族が来てくれりゃラッキー、てなもんだ」
「アルタイラとルシーラットを見ていると、そう思いますよ」
ああ、お前も副官とか直属の配下とか、欲しかったんだな。
レイダにはイカ兄ちゃんとかいるだろうし、スティもウサギ兄妹とか他色々いるもんな。




