362.今の港のお話を
「メイメイデイが、マーダ教の支配下に入ったって聞いたっすよ」
そんなことを物資を搬入に来てくれたコングラから聞いたのは、カーライルがクァルードとして復活してから十日ほど後のことだった。ここからだと結構距離あるから、十日だと情報としてはかなり早いほうだ。
「港町だよな。……レイダか」
「ご推察の通りで。魚人や水棲獣人が、あっという間に教会を占拠したようっす」
なるほど。海を渡って、一気に攻め込んだわけか。……けど、変に血を流したらあとが怖いなあ。
「無闇に殺してないだろうな」
「そこは至極安全にご退去いただいたらしいっすよ」
「そりゃ良かった。ったく、無茶しやがって」
あー、ほんとにほっとした。少しくらいは死んでもしょうがないかな、とか微妙に思ったんだけれど、でもそうするとマール教がそれを傘に来て攻勢に出る可能性が高いし。レイダは勝てても、俺たちは。
しかし、何でまたメイメイデイを取りに行ったんだか。
「ネレイデシア様も、本土に拠点ほしかったんじゃないすかね」
「ああ。今の拠点、島だそうだしなあ」
なるほど。もっともレイダの場合海の中が主戦場になるわけで、島に拠点持ってても良いんだけど……もしかして、水棲獣人のためかな。魚人は水中呼吸できるけど、水棲獣人はあくまでも獣人だから空気呼吸だという話だし。
でもそうか、メイメイデイなあ。港町なんだよな、あそこ。
「港だと、物資もどうにかなりそうだけど……ここに持ってくるまでが問題かあ」
「途中にサヴィッスがあるっすからね。あそこは強固なマール教の街ですし」
「だよなあ。コングラの兄ちゃんが……あ、ごめん」
いかんいかん、本人を目の前にしてベングラさんの話はなかったわ。兄貴はマール教で弟はマーダ教、こういう家って他にもあったりするのかな。
でも、コングラ本人は「いえ、大丈夫っす」とちょっとだけ済まなそうな顔になって、手を振って答えてくれた。
「これはもう、しょうがないことっすから。ただ、面と向かって戦いたかあないっすね」
「コングラに戦に出てもらうなんてもう、ジリ貧じゃねえか」
さすがに、そんなことをするつもりはない。戦は戦が得意なやつにやらせとけばいいんだし、コングラにはもっと得意なことがあるからな。
「お前は荷物を運ぶのが仕事だろ、ないとこっちは飯にも事欠くんだよ」
「腹が減っちゃ、戦どころじゃないっすもんねえ。分かっておりますって」
そういうことだ。コングラはジランドと一緒で、荷物を運ぶことに掛けちゃ俺が信頼している一人だ。だから、お前にはそこで戦ってもらいたいんだよ。
「ただ、港町っすからね。マール教側が奪回に動く可能性はあるんじゃねえかと、親方が言ってました」
「ジランドが言ってたか……気をつけておかないと。一般人巻き込むのは、あんまりよくないもんな」
「戦になると、どうしても巻き込んじまいますぜ」
「分かってるよ」
コングラの言うことも分かる。戦争って、要は殺し合いだものな。
……わりとそこらへんを割り切って考えられるようになってる辺り、俺はやっぱり邪神なんだろう。自分でろくに殺したこともないのにさ……多分、アルニムア・マーダ時代は結構殺してたんだろうとは思うが。
「ただなあ……今の状況だと、マール教側の攻撃のせいで怪我したり死んだりした人も、全部こっちのせいにされると思うんだ。それは避けたい」
「はあ、確かに」
そんな事を言っていたその頃、マール教が本当にそうしていたって分かったのはほんの数日後、だった。




