360.こちらはいかに戦うか
「……増えてんのか」
報告を受けて、俺はちょっとびっくりした。
増えてるのは、要するに俺の信者。というか、村とか街まるごとマーダ教になりますと言ってるところがいくつか出てるらしい。
俺が、というか龍王クァルードが復活したって噂が一気に広まり、そのビッグウェーブに乗るところが出てきたようだ。いいのかそれで。
「そうらしいですよ。グレコロン・サンディからの報告ですが」
「へえ」
当のカーライルが、その報告をしてくれてるんだよね。すごく困った顔になっているのが印象深いというか、何というか。
「とはいえ、こっちが少数派なのは変わらないよな」
「さらに向こうは、勇者の育成を急いでいるようですからね」
まあ、世界全体からしてみるとマーダ教側についてくれたのはほんとに……五分の一とかそのくらいらしい。だから、まだまだ俺たちはマール教に数では負ける。
それに、カーライルが言っている勇者。世界のあちこちに観光地として残っている、勇者がこっちの配下を倒した場所……それが、勇者という存在の凄さを物語っている。まあ、いくつか捏造とかありそうだけど。
でも、勇者の力ってアレじゃなかったけ? 聞いてみよう。
「サブラナ・マールや教主と寝るだけじゃ、だめなのか?」
「勇者というのは、要は戦闘の矢面に立たされる役割ですからね。基礎体力とかは必要になります」
「なるほど」
あー、根本的な問題か。というか、俺も身体鍛える必要あるのかね。吸って精気貯め込んどけば、ある程度何とかなる気はするんだけど。あとそばに補給用の誰か……この考え方は、ちょっと問題があるな、いくら邪神とはいえ。
にしても、まだ勇者が出てこられないなら今のうち……と行きたいところなんだけどな。
「早めに決着つけたいですね。時間をかけるにつれ、こちらが不利になるのは確実ですし」
「勇者が育ったら、また観光名所が増えることになりそうだしな」
いやほんと、何で観光名所を増やさなけりゃならんのだ。マール教の懐を暖めるだけじゃねえか。
「速攻で頭を取る、しかないよなあ」
「ないですね」
頭。この場合はマール教の教主……と、その後ろにいるはずの主神サブラナ・マールだ。まあだいたい、こういうのは中央の一番深いところとかにいるのがお約束で、少なくとも教主は神都サブラナにいるだろう。
「かと言って、神都サブラナ……マール教の中枢に入れると思うか」
「そんな事ができたら、前回勝ってます」
「あ、やっぱり」
ですよねー。
ということは、前回頭を取れなかった俺達は、純粋に物量なり勇者なりで潰されたんだろうなあ。
「ま、いいや。ひとまず情報戦続けて行こう」
「情報戦でございますか」
「うん。俺が四天王引き連れて復活したのは、サブラナ・マールの圧政を正すためにとか何とか言う感じでさ」
これで、マーダ教につくかどうか決めかねている潜在的信者の意識を揺さぶりたい。それでも、数で半々に持ち込むのは難しいだろうけれど。
「まあ、さすがにマール教の身内びいきにはうんざりしている勢力もおりますでしょうし」
「それで、各地にいる俺の信者が頑張ってくれたら良いなあ、とは……希望的観測だけど」
けれど、そこに頼るしか今の俺たちには道は……あんまりない。
せめて、神都サブラナにいる教主をぶん殴る機会がほしい。




