353.面倒くさい僧侶が相手
「みいつけた」
「っ!」
「何!?」
ふいに、目の前で楽しそうな声をかけられた。
はっと顔を上げたら、そこにはマール教の僧侶が一人。背後にはこれまた僧侶の部隊が……十人くらい? 全員、何やらの武器を持っている。杖とか、短刀とか、薙刀っぽいのもあるな。
……他の連中やシーラとスティとは、いつの間にか離れてしまっていたようだ。多分、俺たちをかばってくれたんだろうが……うわあ、また別部隊かよ。
「黒と銀の髪、褐色の肌、頭に沿う角、銀の尾。まさか、幼子に変じていたとはねえ」
「え」
空は明るくなってきているけれど、今いるのは森だからあまりその恩恵に預かれない。そんな中、ランタンを持っている彼女が少々年かさ……もとの俺よりも年上の、おばちゃんに差し掛かる年齢らしいことだけは何となく分かった。あと、それなのにエロボディっぽいことも。
そうして、どうやら俺の正体に気づいているってことも、だ。
「神都サブラナには、過去のアルニムア・マーダの似姿が保存されているのよ。邪教の信者に奪われないように、厳重にね」
「マーダ教なら持ってそうだけど……マール教の総本山にも置いてあるんだ、そんなもの」
「だって、愚かな邪神が復活してきたときに姿が分からないと困るでしょう? 邪教の信者どもの目に触れないようにしなければいけないから、表には出さないのだけれど」
なるほど。
……マーダ教の信者が俺見てあんまり気が付かないのは、あっちに伝わってる俺の姿と今の俺が違うからなんだろうな。少なくとも、エロ邪神とロリっ子じゃ違いすぎるし。
なんてことを考えてたら、僧侶が爆弾発言をぶちかましてくれた。
「復活しているとは思わなかったわ。今度こそ、我らが教主様の下で何もかも忘れてよがるメスにしてあげる」
うおい教主!
この際自分とこの僧侶どもに何やらするのはどうでもいいよ、何で俺にまで手を伸ばしてくるんだ!
というかサブラナ・マールと俺との戦争、理由もしかしてそれかー! ふざけんなそっちのほうこそエロ邪神だ!
「浅ましい話ですね。世界を牛耳るそちらの方こそ、邪教だ」
カーライルの、妙に冷静な声にふっと頭を冷やされた。いつの間にか俺の前に出て、かばってくれる態勢になっている。
……戦闘力としては俺のほうがまだ上かもしれないのに、こいつは俺の神官だから。
「……もしかして、邪教の神官なの? 生き残りがいたのね」
「おかげさまで」
んー、カーライルが神官だってこともあっさり見抜いたか。特にヒントとか、やってるわけでもないのになあ。
それに、神都サブラナのことも話してたし……教主直属とか、そこらへんの偉いさんだったりするのか、このおばちゃん。
「まあ良いわ。私、教主様以外の男には興味ないの。この子たちもそうよ」
「邪教の信者には、死を」
「神官には死を、邪神には教主様の救いを」
おばちゃんがこの子たち、というのは自分が引き連れている僧侶たちのことのようだ。彼女たちが低い声で、わけのわからない……まあ、あっちの思い込みのセリフを連呼してくる。
「……うわ、気持ち悪」
「私もです」
思わず呟いた言葉に、カーライルが同意してくれる。まあ、お前も生命狙われているわけだからなあ。




