350.夜明けの街から逃げ出そう
さて、面倒事は避けたい。戦うにしたって、街中でやらかす訳にはいかない。
というわけで、クルンゴサを脱出することにしよう。
「裏から出るか」
「そうですね。……ルシーラット殿」
俺の一言に、カーライルがシーラの方を見る。彼女は「二人なら大丈夫だ」と頷いてくれた。つまり、飛んで脱出するわけだな。
「明るくなってきているから、飛ぶのに支障はない」
「じゃ、頼む」
「はっ」
少しずつ色が変わっていく空に、夜明けが近いことが分かる。せめて人相がわからないくらいの明るさで逃げないと、顔で探されてしまうからなあ。
宿の裏に出たところで俺はカーライルに抱っこしてもらい、そのカーライルをシーラが背中側から抱える。翼を大きく広げ、一度膝を曲げてからシーラは空へと飛び立った。
「鳥人が逃げた!」
「怪しいぞ、追え!」
おいおい、単純に追いかけてくるのかよ。大丈夫かお前ら……教主に何やかやされた影響か?
とはいえ、下をぞろぞろ追いかけてくるのはうっとおしい、視覚的に。
すうと息を吸って、下に向かって思い切り発声した。
「がああああああああああああああああああああっ!」
「ぎゃあ!」
「うわっ!」
わざと怪獣の声みたいな雄叫びにしたのは、ぶっ放した本人の正体をできるだけごまかすためだ。うまいこと発射された衝撃波は教育部隊の半分を軽く転がし、残りの半分を混乱させた。
「おお、ちゃんと出た」
「衝撃波ですか……そういえば、あまり使う機会がありませんからね」
「戦闘はシーラとか四天王に任せてるしなあ」
ぐんと速度を上げたシーラの腕の中で、カーライルが感心したように声を上げる。パニックを起こした教育部隊たちを尻目にシーラは、街の外れまであっという間に移動している。
「シーラ、スティの居場所分かるか」
「何となくですが、気配は掴めます」
「じゃあ、そっちへ行ってくれ。うまく迂回してな」
「分かりました」
ひょいとクルンゴサの街を周回するように、シーラは軌道を変えた。もしかして、まっすぐスティのところに行こうとしてたかな、お前。
「まあ、バレなければ良いわけですが」
「それもそうだな」
俺の結論を代弁してくれたカーライルには、頷くしかないよな。そうそう、要は俺たちの行き先が教育部隊にバレなければ良いわけだ。
しかし、スティどこにいるんだろうな、と考えたところでシーラが口を開いた。
「適当なところで、森の中に入ります。そちらのようなので」
「分かった。それなら、歩いたほうがいいかもな」
森の中か。まあ虎だし、そのへんが順当なところかもな。




