349.夜明けの街に何やらが
ふっと、目が覚めた。
そっと起き出してみると、既にシーラもベッドから身体を起こしている。スティは……いないな。まだ帰ってないか。
「コータ様?」
「目が覚めた。外が騒がしくないか」
「はい。自分もその声で」
まあ、シーラがそれで起きないはずがないよな。そっと窓際に近寄って、カーテンの隙間から覗いてみる。
「……!」
「……っ!」
まだ外は真っ暗。ただし山の稜線の向こうがほんの少し明るくなってきてるから、夜明けが近い時間なのは確かなようだ。
で、街中に視線を下ろすと、明かり……カンテラを手にしたマール教の兵士、ってかあれ教育部隊か? がぞろぞろ来てて誰かともめていた。多分、相手はこの街の住民。
「何ていうか、嫌な予感がするんだけど」
「実は、自分もです。カーライル殿を起こしますか」
「ああ」
即座に荷物を手にし、カーライルのいる前室に行こうとしたところで扉が内側から開いた。既にざっと身支度を整えた神官が、そこにいる。
「教育部隊が来たようです」
「あ、起きてた」
「一応、追われてきた身なので」
「ああ、そうだったな」
反応が人間にしては早かった理由を、カーライル自身が口にしたことで思い出す。こいつは神官一族の生き残りで、身内に裏切られて何とか逃げ延びたんだ。そうして、俺を復活させた。
まあそのへんは置いとくとして、だ。
「しかし、こんな夜中……ってーかそろそろ朝だけど、こんな時間にか」
「こんな時間だから、でしょうね。この時間帯はどうしても、警戒がゆるくなりますから」
夜明け前に教育部隊がやってくる利点を、さらっとシーラが口にする。ああ、こちらの警戒心が弱い時間帯を狙って押し込むわけか。
俺の城なら一応、それなりに警備とかしてるけど。こういう観光業でやってる街はなー、どうしてもなあ。
「……バングデスタ様は、まだ」
「戻ってない」
スティについてカーライルに尋ねられて、一言で答える。実際、そうしか言いようがないしな。
ただ、推測を述べることはできる。
「何かあったのか、もしくは教育部隊とかち合うのを避けて外か」
「後の方が可能性が高いかと思われます。もしここに来るまでにバングデスタ様が発見されたのであれば、連中はもっとざわついているでしょうから」
「うちの四天王、だもんなあ」
シーラ、ありがとう。確かにお前の言うことが正しい、みたいだな。
四天王、獣王バングデスタがマール教の部隊とぶつかれば、あいつらもあんな平気な顔をしてはいられないはずだから。




