034.次の街へとさあ行こう……?
乗り合い牛車の昇降場、要するに駅。
町の出口近くにあるそれは、大変のどかなもんだった。ま、動力源が牛だからな。
牛小屋と車の倉庫がちょっと離れたところにあって、そこから出てきた牛車を待つ人の待合所が屋根付きバス停みたいな感じで建っている。踏み台があるのは、荷台に乗る時用だそうだ。
んもーう、とのんびり鳴いているのが、この世界で荷車を引く主たる動力源の牛だ。
俺の知ってる牛というよりは、こいつは水牛の方が近い。角が横に伸びてたり、水牛と比べればそんなに変わってはいない。ただ全体的に引き締まってマッチョな感じで、さすが使役用だなとは思う。
なお、角は邪魔なのは邪魔らしいが、山賊などの襲撃があった時用らしい。まあ、あれだけ太い角なら攻撃にも防御にも使えるか。
……俺の、頭に沿うように生えてる角はどちらかと言うと防御用か。自前のヘルメットみたいな感じだな。
「サブラナ・マール様の御教えにそぐうよう、しっかり修行を務めてくださいませね」
「ありがとうございます」
ここの僧侶さん、わざわざ見送りに来てくれたらしい。ファルンとにこやかに会話してる。
マーダ教のATM代わりにされてるとも知らないで、幸せそうだなあ。もっとも、この人が悪いんじゃないか。少なくなってきたっていう、真面目にお祈りする僧侶さんなんだろう。
ま、マール教だろうがマーダ教だろうが、悪いことするやつをせっかくなのでしばき倒すのもいいよな、とは思う。
「お嬢さんも、大変だと思いますけれど頑張ってくださいね。我らが神は、いつも見ていますよ」
「はい、ありがとうございます」
何も知らないから言える彼女の台詞に、精一杯の笑顔で答える。さて、うまく幼女をやれてるんだろうかね。
「コータちゃま、ミンミカがついてる、です」
「あらあら。すっかり仲良くなっちゃって」
「仲がいいのは、良いことですから」
もふ、と背後から抱っこされた。ミンミカはすっかりこういう感じなので、まあいいか。傍から見たらウサギ娘と角娘が仲良くしてるわけだし、苦笑するカーライルはすっかり保護者というかお父さんだし。
これで疑われたらきっと、そいつは超能力者かなにかだ。
「修行中も、目の保養になります」
「あら、しっかり修行して教主様のお情けをいただける素晴らしい僧侶になっていただかないと困りますわ」
「そうですね」
「シーラ様も、ファルン様をしっかり見ていてくださいませね」
「分かっております」
目の保養ってファルン、それはいいのか。シーラも平然と返すなよなあ。
本当に、何も知らないってのはすごいよなと思う。もっとも、知ってたら今頃ものすごく面倒なことになってたはずだから、これはこれでいい。
この先も、このまま行ければいいけどな。
「そろそろ出る時間ですよ? 僧侶様」
御者のおっさんが、俺たちを呼びに来た。至極普通の、茶色系の上下着てつばの広い帽子をかぶっている。日よけなんだろうな、うっかり眩しくて見えなかったりしたら大変なことにもなりかねないから。
主にファルンに向けて話してるのは、やっぱりマール教僧侶ってのがこの世界では一種のステータスみたいなものだから。俺たちがファルンの修行にくっついていってるって設定だし、仕方のないところではある。
「ふふ、ありがとうございます。では、失礼いたしますわね」
「行ってらっしゃいまし。よい旅を」
僧侶さんに見送られ、俺たちは小さい順に荷台というか客席……間を取って客台か、に乗り込む。俺、ミンミカ、ファルン、シーラ、最後に野郎のカーライルがほいっと乗り込んだところで、踏み台が外された。
一緒に乗ってるのは、商人っぽいおっさんとその護衛らしいチンピラが二人。俺たちと……というかファルンと顔を合わせると、軽く目礼をしてくれた。
「これはこれは、僧侶様。修行の旅でございますか」
「はい。友人たちと共に、もっと間近で神にお仕えするために励んでおりますわ」
にこにこ笑いながら答えるファルン。……あーまー、確かに間違っちゃいないのか? 神様がちょっと違うけど。
「それはよろしいことですね。ほんの僅かですが、私共も道行きを同じくさせていただきます」
「あなた方にも、我らが神のご加護がありますように」
ファルン以外、口を閉ざしておく。いや、余計なこと言ったらほんと大変だし。
この場合の『我らが神』がここにいるロリっ子だってことなんて、特にな。
「では、出発しますぜ」
御者さんの声と、ばちんというムチの音と共に牛車がゆっくり動き始めた。舗装された道じゃないから、がたんごとんと揺れるのはしょうがない……あ、やべ、俺乗り物酔いするかも。あんまり強くないんだよなあ。
でもさ。
御者の人も乗り合わせたおっさんたちも、すげえ胡散臭い連中に思えるのは気のせいか?
ま、いいか。
胡散臭いのがビンゴなら、遠慮なくシーラがぶった切れるし。ついでに金品巻き上げることもできる、かな。




