339.遠い村からお手紙が
ナーリアの村から、手紙が届いた。城に戻ってから五日ほど後のことである。
「ネッサ村長からですわ。燕さんたち、ナーリアの村まで行ってくださったようですわね」
「あー、あのどえむ」
手紙を渡してくれたファルンの言葉に、転けそうになった。忘れられるかーい、と虚空に向かってツッコミを入れたくなる。
というか、あそこでもらった地図から考えるとほぼ世界縦断なわけで、それをほんの数日で届けられる燕鳥人てすごいなあ、と思った。上空にジェット気流とかあったりすればそれに乗ってスピード出せるから、そういうのがあるのかね。
ま、とりあえずは届いた手紙を見てみるか。どれどれ。
『お元気でしょうか。わたくしめはあなたさまのお戻りになる日を、毎日悶えながら心待ちにしております』
「悶えるな!」
「お変わりないようで何よりですね……」
この書き出しに、さすがに全力でツッコミを入れた。ネッサを知っているファルンも遠い目になる。……俺が吹き込むまでは表向きどえすだったわけで、そのギャップが印象強すぎたんだろうな。うん。
ただし、書き出しと『あなたさまの愛のしもべネッサ』なんぞという最後の署名を除けばそれなりにまともな内容だったので、手紙は何とか読むことができた。
ナーリアと、その付近の村や街に教育部隊が査察に訪れた。かなり細かく調べたようで、どうやらマーダ教信者について探っているのではないか、ということらしい。
「ふーむ、なるほど……」
ていうか、ネッサからこういう報告の手紙が来るってことはネッサのことはバレてないわけだよね? バレたら忘れる、っていう風に俺が命令してるんだから。
そこまで探り当てることは、教育部隊にはまだできないらしい。あぶねーあぶねー。
「これは、わたくしどもの本拠地がここだということを、教主様はおわかりになっているということでしょうか」
手紙の内容から考えたのか、ファルンが困った顔になる。教主様、なのはマール教の僧侶だからしょうがないけど、マーダ教の主神としては何かムカつくなあ。
それはほっといて、だ。
「南から手を付けてるんなら、そうだろうな。こっちの戦力が小さいということを分かっていて、手を出せないところを先に片付けてるわけだ」
「では……」
「直接こっちに手を出すのは、世界の大半を抑えてからだよ。そうしてから、俺を引きずり出すつもりだろ。城の攻略が難しいのは向こうも知ってる」
北方城を本拠地としている俺たちを世界から孤立させるために、遠い南方からじわじわと支配力を強めていく。その後こっちに手を出せば、四天王や俺が表に出なくちゃならなくなる。
……で、俺はどうされるんだろうな? ロリコン教主だったらやだな、とは思うんだけど。女なら何でも良いって方が確率高そうで、それでも嫌だ、うん。
しかしそうなると、外部の情報をこまめに入手する必要があるな。ファルンに頼むか。
「……燕たちには、まだ抑えられていない村や街の情報収集を頼みたい。マーダ教寄りで、俺について来たがってるやつがいるかどうか」
「分かりました。そのように手配いたしますわ」
「頼む。と、その前にファルン」
「はい?」
それと念のため、俺はファルンを手招きする。
「マール教に戻られても困るからな。少し多めに吹き込んでおく」
「はい。どうぞ」
ずっとファルンが、俺の下僕でいてくれますように。
誰に祈ってんだろうな、俺。自分が神様なのにさ。
「いただきます」
「ん、ふっ」
ともかく、俺はファルンに結構多めに、俺自身の気を吹き込んでおいた。




