338.外の拠点に念のため
「あとは、各地の問題だな」
自分のところばかり気にしていると、配下のいる村や拠点の守りが疎かになる。俺たちマーダ教は相変わらず超少数派で、だからマール教が数で押しつぶしにくれば勝てる公算は正直、ない。
「ドンガタとかバッティロス、他にもネレイデシアのとこにいる人たちもそうだと思うけど、俺たちに賛同してくれる人たちはいる。マール教がそれを知れば……ま、分かるだろ」
「全滅させるか、でなければ重税を課すか村人を拘束するか……教育部隊ですかね」
「ああ」
まず最悪のパターンを持ってくるのはカーライル、さすがかな。うん、最悪も考えておかないと、ひどいことになりかねない。
教育部隊がまあ、一応一番マシなパターンか。もともとトップはルッタだったけど、彼女はアルタイラだし。
「ルッタはこっちに戻ってきたけれど、新しいトップはとうに着任しているだろうしな。以前と同じように任務を遂行しててもおかしくない」
「向こうさん、人材には事欠きませんからなあ」
スティがうんざり顔で頷く。そうそう、超多数派ってことは挿げ替えの頭も探しやすいんだよな。世界のどこからでも連れてこられる、ってことだから。
対してこちらは、なんとかできた拠点がほんと、片手の指でカウントできるレベルである。そこを、しっかり守らないといけない。
「こことドンガタ、あとバッティロス。さしあたっては、それぞれのエリアを守れる人材を何とか育成しないと」
「ドンガタはそれなりに近いですからまだ良いですが、バッティロスは遠いですからな」
「サンディタウンは変に守りを送ったら怪しまれますしね」
俺の挙げた拠点を守ることについては、特に問題ないみたいだな。カーライルの言う通り、サンディタウンはさすがにこっちの人員を割くと逆に危ないだろう。
「正直に言うとシーラやルッタ、スティに行ってもらうのが一番なんだけど……肝心の俺が強くないからな」
「ネレイデシアだけは別行動ですが……彼女はそもそも、支配エリアが根本的に異なりますからね」
「海の中だもんな。あっちは彼女に任せておいていい、と俺は思う」
一番手っ取り早い方法を取れないのは、俺が弱いからだ。俺が一人で城にいても何の問題もないくらい強いなら、四天王たちにそれぞれのエリアを任せられるはずなのにな。
……レイダはもう、ああいう芸風だと思っておこう。まじで海の中って、俺たちにはどうしようもない場所だし。
「では、北方城で訓練している者の中から見どころのある者を数名選別し、それぞれに派遣すればよろしいかと」
「まあ、そうなるな」
カーライルの意見が順当なところかな、うん。本当ならちゃんと実力のはっきりしてる、スティ辺りを送ってやりたいんだけど……いっそ俺が丸裸になってぶっ殺されて、全盛期のアルニムア・マーダとして復活してみるか? 本当にそうなるなら、だけどな。
というか、俺を守ってくれそうな実力者って、復活してくれれば一番いいのが一人いるんだけどなあ。
「クァルードが見つかればいいんだけど……情報は全然?」
「全くですね。あの寝惚け龍、どこで寝ているんだか」
「龍王様も、ご同僚のバングデスタ様にかかっては型なしですね」
「起きてきたら文句言ってやるつもり、だねえ」
いやほんと、龍王クァルードはどこで爆睡してるんだろうな。……探して見つかるところなのかどうか、分からない。
あ。
「案外近くで寝てるものかもしれないな。その方が、バレないから」
「そういうものなのですか? コータ様。私はよく分かりませんが」
「俺の世界だと灯台下暗し、って言うんだよ。明かりのすぐそば、足元とかの陰だと逆に見えないねって」
「なるほど。あのバカ龍、そこら辺でぐーすかといびきかいてるかもしれないということですね。ありそうです」
……灯台下暗し、か。
自分で言っておいて俺は、なんとなくそれが正解のような気がした。




