327.盗人がやってくる夜
その日の晩。
畑のそばで張っていた俺たちのところに、ダルシアが音もなく飛んできて告げた。
「来ました」
「分かった」
その言葉に、俺たちは腰を上げる。
バッティロスの村人たちは、コウモリとはいえ普通に夜寝て昼起きる生活をしているのだそうだ。そんなわけで今は睡眠時間であり、ほぼ全員を休ませている。
ただ、ダルシアとベルーテ、ゾルドにおばちゃん……フーラっていうそうなんだけど、その四名は見届人というかたちでこちらに参加していた。つかダルシア、お前頑張り屋だなあ。
「まずはベルーテたちで声を掛けよ。油断したところに、俺たちが行く」
「承知しました」
作戦隊長、というような立場にいるスティの指図で、ベルーテたちが先行する。ややあって、畑の方でもめる声が上がった。
ふん、と僅かに牙を見せ、スティはその声の方に向かって吠えるように呼びかける。
「お前さんがた、畑で何してるんだ?」
「え」
ざわっとした感じでこっちを見たのは、四十代に差し掛かるくらいのおばちゃん僧侶とよその村人……十人くらいか。意外に少ないな。
たかだかその十人ほどの襲撃を、マール教という錦の御旗……だっけか、とにかくそういうので正当化するってどうよ。そのせいでバッティロスの人たち、自分たちじゃどうしようもなくてスティに助け求めてきたんだぞ。
「村長さんたちはこちらに」
「う、うむ」
俺はさっさとベルーテの手を引っ張って、スティの後ろに誘導する。そこにいたダルシアが、彼やゾルド、フーラたちを引っ張り込んでくれた。
ただ俺はちっこいし、他の連中にはあまり気にされなかったようだ。いや、何しろスティがでかいからな。伊達に獣王はやってないってか。
「と、虎だと!」
「虎だ。作物泥棒が出没してるというのでな、用心棒に雇われた」
とはいえ、獣王バングデスタと知られていない今のスティは用心棒の虎姉ちゃん、というわけだ。それはそれで怖いよな、うん。声可愛いけど。
「あなた! この私に逆らうとでも言うのですか!」
「おや」
おばちゃん僧侶が、えらくでかい態度で言い放ってきた。こっちの方だと、それだけ僧侶の権威がでかいってことなのか。
だから、穏便に生きたいコウモリ獣人たちが困っても、知ったこっちゃない、と。
「そなた、マール教の僧侶殿か」
「そうです。バッティロスの作物は、我らが神に捧げる重要な貢物……」
「何だ、マール教というのはほそぼそと生きている下々の畑を襲わねば生きていけぬ、貧乏宗派なのかな」
何か、高尚なこと言いかけたおばちゃん僧侶の声にかぶせるように、スティが煽りにかかった。いいぞ存分にやっちまえ、と思ったのは俺だけじゃないと思う。フーラが何かにやにやしてるし。
「それとも、偉大なるサブラナ・マール様が盗みをやっても良い、などと仰せになられたのか? いや、まさかまさか」
声可愛いのに、言ってることは嫌味たっぷりだし態度と体格でかい。おばちゃん僧侶の顔は引きつり、他の人たちはうわあ、どうしようって感じでお互い顔を見合わせてるし。
「い・だ・い・な・る、サブラナ・マール様に限ってそのような、愚かなお達しをなされるはずがなかろうなあ。いやいや、失敬」
「貴様、よもやマーダ教か!」
「問題をすり替えなさるなど、マール教の僧侶殿がやることではござらんなあ」
……スティ、北方城でストレス溜まってたのか正体判明前から溜めてたのかどっちだ。後で聞くぞ、いいな。




