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326.獣には獣が命じる

「まあ、俺が本物かどうかなんて今は些細な話だな。まずは、村の畑を守るのが最優先だ」

「は、そ、そうだった」


 さすがに、いつまでも虎に睨まれたコウモリはかわいそうなので話を元に戻してやろう。そもそも俺たちは、この村の畑を荒らす馬鹿野郎どもをしばき倒すために来たんだから。

 この彼らが表立って仕返しが出来ないのは、マール教の僧侶が宗派をかさに来て動いてるためだ。今は俺たちの復活のせいでマール教はぴりぴりしてて、うっかり反抗などすればマーダ教だと決めつけられて滅ぼされるなり何なりするのがオチだから。


「面倒な僧侶は俺が対処する。取り巻き共は程々に痛めつけるのが一番だな」

「し、しかし」


 対処、って要は吹き込むだけの話なんだけど、それを知らないベルーテは完全にビビってる。ゾルドも顔をひきつらせていて、一体どうするんだよと言いたいようだな。顔に書いてある、ってこんなときに使う言葉だというのはよく分かったけど。

 その中で、おばちゃんが「おそれながら」と口を挟んできた。うん、発言は問題ないぞ。


「僧侶に手をあげると、大ごとになりかねませんが」

向こう(マール教)はそうしたがってるようだがな」

「同じマール教として、とても迷惑ですわね。混乱の火種を生み出したがってるなんて」


 彼女の言葉にはスティがさっくりと答え、ファルンがきれいな眉間にシワを寄せる。あー、後で吸っちゃろ、とかちょっと思ってしまった。ま、それは問題の僧侶の後だな。


「僧侶さえおとなしくすれば、取り巻きのやってることはただの泥棒だ。衛兵に突き出せばそれでどうにかできる」

「どうにかなるのですか?」


 一応正論を述べてみるが、ダルシアが不安げに俺を見てくる。もともと、ここの連中が自分たちでそうできれば苦労はしなかったんだもんな。

 安心しろ、責任転嫁先も考えてあるからさ。


「衛兵がきちんと処理できなければ、それはここらへんの領主がぼんくらだからだ。なら、その領主を潰せばいいだけのこと。な、スティ」

「おっしゃる通りにございます」


 満足げににいと笑って、スティは俺の意見を肯定してくれた。肉食獣は笑うと、獲物みーつけたな顔で時々怖いんだよなあ。

 それはともかく彼女は、ベルーテの顔を見て口を開く。


「ベルーテ。村の者に伝えよ」

「はっ」

「この場はこれより、獣の王バングデスタが取り仕切る。此度の問題はどの神を奉ずるか、ではなくその行為の愚かさだ。たとえアルニムア・マーダ様を信仰する者であっても、いたずらに畑を荒らすのであれば同じように罰する」


 まあ一応、そもそも呼ばれてきたのは彼女だしな。俺がくっついてきただけで……だから、基本はスティがメインで動いたほうが良い。

 それを本人もわかっているから、自分の名前で命を下す。獣王バングデスタ、かつて恐れられたその名前で。


「これは我らが神、アルニムア・マーダ様のお考えでもある。マーダ教を信ずるのであれば、そのお気持ちを心に留めよ。よいな」

『は、ははあっ!』


 吠えてはいないけれど、地を這うようなよく通る声。ベルーテもゾルドもおばちゃんも、ダルシアに至るまでその場に平伏してしまった。こっちにいる俺とファルンは平気だから、聞こえる場所とかにもよるのかな。


「ゾルド! 急ぎ村に触れを出せ!」

「は、い、行ってまいりますっ!」


 泡を食ってゾルドが洞窟の奥にすっ飛んでった。俺が邪神なのは信じられなくても、スティが獣王なのは信じられるらしい。

 そりゃそうだな、獣人ロリっ子と大柄迫力満点虎姉ちゃんじゃ、信用性に差があるわ。

 頭の中でそんなことを考えていたら、振り返ったスティに「よろしいですね、コータ様」と一応念を押された。ああうん、特に問題はないけどさ。


「スティ、お前は俺のこと、よく分かってくれてるなあ」

「ファルンやルシーラット、神官からもよく聞かされておりますからね」


 俺を肩の上にひょいと載せながら、スティはそんなことを言う。神官てカーライルか、あいつ俺のことどんなふうに言っているのやら。当人はここにいないし、聞いてもいいかな。


「一体、どんな話してるんだよ……」

「幼い姿が愛らしいとか、今度はどのようなお衣装を仕入れようかとか」

「おーまーえーらー」


 スティがあまりに楽しそうに言うもんだから、俺はちょっと恥ずかしくなってもふっと毛皮に顔を突っ込んだ。

 ロリっ子スタイル、悪くないときもあるけど今回みたいに困ることとかあるんだよ。というかお前ら、配下のくせに何その扱いは!

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