317.新顔は突風と共に
彼女は、唐突にやってきた。
「はー、よく寝た」
朝起きて、窓を開ける。ガラスってありがたいなあ、閉めてても外がちゃんと見えるんだもんな。
ただ、この世界だとまだまだ歪みがあるんでガラス窓閉めると外が歪んで見えるんだよな。もっとも、昼間に明かりが入るだけでも結構でかいんだが。主に光熱費。
夜の明かりに使う、魔力の詰まってる石。あれは、それなりに買い入れないとやってけないわけよ。東方砦だともう、砦の中でコツコツ採れるから良いんだけど。……こっそりドンガタ村、というかガイザスさんと取引してるのは、マール教には内緒だ。
「んー……」
まあそこら辺は置いといて。窓を開けると歪まない北の山の風景が目の前に広がって、これは絶景だなーと一人満足する。
今日はミンミカもいないので、本気で一人。多分自室で爆睡中だろうな、あのウサギ娘。
なんてことをぼさっと考えてたら、ぶおっと強風に煽られた。おう、髪がボサボサになるだろうが量が多いんだよ、このロリっ子ボディ。
「うおっ」
おっと、いかんいかん。北の山の中なので、地味に風が強いんだよな。なので、窓のガラスは結構厚め……外が歪んで見える理由の一つでもある。このへんは技術の問題なのでしょうがないけどな。俺、薄い窓ガラスなんて作れないし。
とか考えてると、また風が吹き込んできた。それと一緒に、何か声も。
「わあああああ!」
「はい?」
窓枠にがん、と何かがぶつかった。そのままそれは、風に煽られるようにふわりと浮かぶ。
背中に羽っぽいものが見えるんで、鳥人かなんかか。
「開いてるぞ、こっち!」
「はい、っ」
とっさに呼ぶと、その何かが腕を伸ばして窓枠を掴んだ。風がまだ強くて浮かんでいられるうちに、何とか室内に入り込んで来る。
ていうか今の声からすると、床にべしょっと伸びたこいつは女の子か。また新しい子か、ラッキー。
「は、た、たすかり、ました」
やっぱり、背中に翼がある。ただし、鳥の羽じゃなくてコウモリの羽。骨の間に革張ってるタイプの黒い翼が、本体同様床にべろんと伸びていた。
「こ、ここ、北方城、ですよね」
「そうだけど」
どうにかこうにか上げられた顔は、少しタレ目のちょっと頼りなげな感じ。髪は白っぽく目は赤く、それでもって肌が俺より黒かった。……コウモリの獣人、でいいのかね、彼女。
「ど、か……あるたいら、さまか、ばんぐですたさま、におたすけ、を」
で、その彼女はそれだけ言って、ばたりと突っ伏した。よく見ると着てる服、薄手の布な上に更にぼろっちい。何だ、どうしたこれは。
「失礼します! コータ様、何かございましたか!」
こういうときにはちょうどいい奴、というかカーライルがすっ飛んできてくれた。俺の部屋にはちゃんとノックして入ってくるあたり、そこまで緊急事態とは……思っててもこいつ、断ってから入ってきそうだな。
単純に考えれば邪神の私室に侵入者、なんていう超緊急事態なはずなんだが。当の俺はまったく危険を感じてないけど。
「あ、ちょうどいい。こいつの手当頼む!」
「手当、あ、はい」
なので、ひとまずべちゃっと伸びている彼女の介抱を頼むことにした。まあ、この状況見ればコウモリの彼女が何がしかの悪意で入ってきたのではないことくらい、カーライルも分かるだろ。
「あと、ルッタとスティ呼べ。詳しくは分からんが、どっちかに助けてほしいらしい」
アルタイラ様か、バングデスタ様。
この彼女は二人の本名を言ってたから、まずマーダ教だろう。もしマール教なら、俺が吹き込むまでだ。
さてさて、どこで何が起こってるんだかな。




