316.こっちもずるいやり方で
東の方でもあまり芳しくない事態になっている、それが分かったのはフレイナが報告に来てくれた翌日のことだった。
俺のところには直接来ないで、カーライルが報告を持ってきてくれた。なお、俺はミンミカもふもふ中である。しょうがないだろ事務処理って脳みそ疲れるんだから!
「エンデバルで、暴動が起こっているようです」
「おにーちゃんとあったところ、ですね」
「そうだな。てか、あそこで暴動?」
ミンミカが言ってくれたおかげでああ、そういえばあそこでアムレク拾ったっけ、と思い出した。マール教の教会で世話になってて、でも世話してくれてた僧侶が入れ替わってたのに気が付かなくて。
でも、あんな摘発があったんだからマーダ教信者が暴動、なんてのは考えにくいしなあ。
そうしてカーライルが持ち出してきたのは、アムレクが絡んだその話だった。
「ほら、マーダ教信者が僧侶殺して成り代わってた事件、ありましたでしょう。あれでそもそもマーダ教への反感が大きくなっていたところに、今回の通達が住民の間に触れられたらしくて」
「つまり、暴動ってのはマール教信者のほうか」
「はい。そのようです」
そういうことであれば、俺も納得がいく。
抑圧されたマーダ教信者が反発して暴れているのではなく、教会からのお達しという一種の後ろ盾を得たマール教信者が調子に乗って、武器をとったわけだ。
「マーダ教を遠慮なく叩き潰せるお題目ができましたからね。これ幸いと過激な住民がマーダ教信者らしい連中を袋叩きにしたりしてて、治安がひどく悪化してるらしいです」
「だから極端に走るなと、もー……」
カーライルが眉間にシワを寄せて、ものすごく嫌そうに書類を読む。カーライルの一族も、そんな感じで滅ぼされたんだろうか……と考えていて「あれ」となった。
「マーダ教信者『らしい』?」
わざわざ、そんな言葉を後ろにくっつける。というか、実際にマール教かマーダ教かなんてそう簡単に分かるものか?
ということはもしかして。
「ちゃんと確認もせずに襲撃されてるってことか、被害者は」
「そういうことです。ガチの信者は例の事件以降、さらに鳴りを潜めたり移住したりしてますからね」
「……」
あーあーあー、嫌な方に推測が当たったらしいなふざけんじゃねえ。
それってつまり、袋叩きにされてるのは無実の人だったりするわけか。
たまにはビンゴだったりするかもしれないけど……どっちにしろ胸糞悪いな、おい。というか、エンデバル当局何やってんだ。
「ガチの信者はまあ、ほっといても何とかなりそうだな。問題は、うちと間違われて襲われている人々か」
「マール教側が何とかしてくれてるとは思いますが。結局、治安が低下してるのは奴らのせいってことになりますし」
「衛兵さんたちも頑張ってくれないとなー……」
エンデバルの衛兵、と言ってみて思い出したのがガゼルさんだった。小さな角を髪の中に隠した、獣人ハーフの彼。
もし獣人の血が入っていることが分かれば、あの人もマーダ教信者だと思い込まれて攻撃されるんだろうか。
「カーライル。燕たちを使うなり何なりして、エンデバルや周辺の街々に噂を流せ。北の方だと、こんな怖いことにはならないってさ」
「怖いこと、でございますか。つまり、マーダ教信者と間違われて襲われない、と」
「そういうこと。それでこっちに人が流れ込んでくるなら、その中にはガチ信者もいるだろ」
「なるほど」
本当でもないけれど、嘘でもないだろう。こちら側の僧侶たちは、ある程度俺の下僕になってしまっているから。教育部隊もサングリアスを抑えてあるから、他の地方よりマーダ教に対する目は和らいでるはずだ。
なら、今の状況が嫌で逃げてくる人の中にはガチのマーダ教信者が紛れ込んでいてもおかしくない。あとはそいつらが、頑張って俺のところに来られれば何とかなる。
「そうですね。手配します」
「頼むぞ。こちらがある程度、喧嘩を買えるレベルになるまでは何とか持たせたい」
まともに戦になればまだ、こちらに勝ち目は全くない。俺の配下の勢力をもっと増やさなければ、な。




