307.無茶をさせたい四天王
昼過ぎまで爆睡してたシーラは、その後向かいの居酒屋でガッツリ飯を食った。そうして、さっさと身支度を整える。
「それでは、お先に失礼いたします」
「すまんな。皆によろしく」
「はっ。では!」
俺の後ろにいるルッタに礼をするようにして、シーラは空へと飛び立った。
一応人前だからな、表向きに俺が大ボスだってのは内緒。だから、俺の代わりにルッタが答えてくれたわけ。ぱっと見で鳥人どうしなのは分かるから、それなら大丈夫だろうって。
……めんどくさいね。いい加減慣れてはきたけれど。
「コータちゃん。仕上がりはいつ頃になりそうですか」
シーラの姿がほとんど見えなくなった頃になって、カーライルがそう尋ねてきた。具体的に何がとは言ってないけど、逆鱗のことだろうな。
「えっとね……今日からだと、あと五日くらいだと思います」
「なるほど」
だから、ガイザスさんの教えてくれた期日を元に大体の日にちを伝える。要するに、それまでここにいるってことなんだけど。
しかし、何もしないってのもおかしな話だしな……なんて思っていたら、ルッタとともに俺の背後に並んでたスティが「そうだ、カーライル」と口を挟んできた。
「お前もこの際、良い武具を整えておかんか」
「え」
「お前が戦が不得手なのは知っている。が、護身の武器も持っておらんようでは主も守れぬぞ?」
「ふむ。それはたしかに、おっしゃるとおりですね」
固有名詞出さないように会話してるのはすごいな、と思う。要は、主って俺のことだし。
しかし、確かにカーライルも護身術……は一応できるっぽいけど、それで大丈夫とはこの先行かない気がする。特に、俺のこととかルッタのこととか知ってる連中とぶつかった場合。
カーライルもそこら辺は心得ているから、考えてることはやるかやらないかじゃなくて、その次になっていた。
「しかし、どういったものを持てば良いでしょうか……」
「何、短剣でいい。俺やこいつが簡単な護身術を教えてやる」
「え゛っ」
ああ、四天王のうち二人が護身術を教えてくれる……って、大丈夫か?
何と言うか、ガチの戦闘術になる気がするんだけど。カーライル、顔引きつらせてるのはそこまで考えが行き着いたから、だろうな。
「ろくに鍛錬もしておらんのに、それなりに筋肉がついている。きちんと鍛えれば、よい戦士になるだろうよ」
「うむ、鍛え甲斐がありそうだ」
「え、あ、あの」
カーライルの身体をぺたぺた触って、ルッタが満足げに頷く。スティがにいと牙をむき出して笑ってるのは、別に獲物として捉えてるわけじゃないよな。
涙目でカーライルがこっち見てくるけど、正直俺もお前が戦力になってくれれば嬉しいし。というわけで。
「頑張ってくださいね、カーライルお兄ちゃん!」
「はいっ! ………………あ」
うむ、やっぱりうっかりノッてくれるとは思ってたぞ。というかほんとに大丈夫か、俺の神官。
「よし、決まりだ」
「まずは武器だな。ルッタ、任せたぞ」
「任された。よし来い」
「あがががが」
ルッタに引きずられて村の中心部に消えていくカーライルを、俺はスティと共に見送った。大きく手を振って「いってらっしゃーい」と可愛らしく言うことは忘れずに、な。




