300.とっても大事な宝物
ドンガタの村に向かう前、ガイザスさんは俺たちに「いいか、嬢ちゃんたち」と真剣な顔で忠告してきた。
「この逆鱗、どこでどう手に入れたか誰にも言うでないぞ。わしが見つけたことにしておけ」
「あ、はい」
「説明してもらえますか」
「無論じゃ」
思わず俺は頷いちゃったんだけど、ルッタが説明を要求してくれて助かった。いや、言わないのはいいんだけど、理由くらい知っておいたほうがいいもんな。
「逆鱗、なんつーもんはわしらが一生に一度手に取れるかどうかもわからん、それくらい珍しい素材じゃ。これが手に入った、ということはかなりの確率で龍の骸があり、そこで他の素材が取れる可能性もある」
「こちらの逆鱗の持ち主は、全身が砂になってしまいましたが」
「そりゃ、かなり年寄りだったんじゃないかね? 逆鱗がそれだけぼろぼろなのも、そういう事なら納得がいくでな」
おう、ルッタの言葉でヴィオンの最後の状態を見透かされてしまった。そっか、あそこまで年を取りすぎずに亡くなった龍人族の逆鱗って、クァルードのもんみたいに使えるんだな。
ただ、現実はそのもうちょっと上を行っていた。ガイザスさんいわく。
「逆鱗でのうても角や牙、他の鱗も良い素材となるし、単純に売り物としても高く売れる。都会に屋敷の二軒や三軒、使用人雇用付きで余裕で建てられるレベルにはな」
「噂には聞いたことがあるな。もっとも、俺が使っているのは金属のもんばかりだが」
……売れるんかい。あと、スティも聞いたことあるんかい。まああるか、特に彼女は肉弾戦でどうにかするキャラだし装備は重要か。
しかしまあ、そう考えると結構えぐいなあ。逆鱗なんて持ち主が死んだときでもなきゃ手に入らないわけで、つまりはそういうこと、だったんだろう。龍人族が多くいた、昔には。
「そういうわけじゃから、嬢ちゃんたちに余計な面倒は掛けられん。また別の山奥で拾ってきた、ということにすれば他の連中の目はくらませられる」
「いろいろあるんですね……」
「まあな。ま、他の連中もそういうことは知っとるから、詳しくは聞いてこんけどな。根掘り葉掘り聞いてくるやつがおったらそいつはにわかか、金に目のくらんだ阿呆じゃよ」
いやもうガイザスさん、ご忠告本当にありがとう。一応神様としては、配下であるクァルードやその仲間たちを危険にさらす訳にはいかないもんな。
というか、ある意味洒落にならないものの売り買いしてるんだな、と思う。鳥人の羽とか、獣人の毛とか、やり取りしてるところもあるんだろうか。いや、羽とか毛とか生え変わるやつだったりするのは良いけれど……なんか逆鱗も生え変わりそうだけど、多分時間のスケールが半端ない。
「それでは、ガイザス殿がたまたま山の中で発見した、ということでよろしいですな」
「おう、そういうことにしといてくれ。で、嬢ちゃんが一緒に見つけてくれたんでプレゼントすると約束した、あたりでな!」
「了解しました。コータちゃんへのプレゼント、ですね」
「ありがとうございます!」
と、そういうことで話はついた。さすがにこの逆鱗が龍王クァルード、その人のものであるなんてことだけはガイザスさんにも言わないけど、な。




